ドローン,中国
(画像=Webサイトより)

中国在住の筆者は先日、公園で60歳以上の男性グループがドローンやラジコン機を飛ばして楽しんでいる場面に遭遇した。このような光景は初めて見た。中国の趣味の世界はロマンを欠き、ディ—プな鉄道ファンや航空ファンというのはあまり見かけない。

中高年男性の趣味と言えば、コウロギや鳥の飼育が有名だ。これらは価値を上げて転売可能で、いかにも中国的である。そうした男性たちの趣味・趣向も欧米化してきたようだ。ところでこうした内需動向には関わりなく、中国はすでにドローン生産世界一になっている。生産背景と用途の両面を探ってみよう。

世界一のドローンメーカー以外は知名度低め

中国には多数のドローンメーカーが存在している。たとえばDJI、Autel Robotics、FLYPRO、Hubsan、MJX、Nine Eagle 、Pro Drone、Symatoys、Walkera 、Yuneecなどだ。その中心は世界ナンバーワンのシェアを誇るDJIだ。他メーカーは圧倒的に輸出が多く、あまり知名度は高くない。最近では大手スマホメーカー小米科技(シャオミ)が参入を発表して話題を呼んだ。

この部門でも中国に新興の世界一企業があった。そのDJIとは「深セン市大疆創科技有限公司」の略称ならびにブランド名である。沿革を見ようと中国のネット辞書に当たってみたが、詳しい記載はなく、謎めいている。

香港科技大学の卒業生たちが2006年、広東省・深センで創業、香港、東京、神戸、ロサンゼルス、ロッテルダムに支店または営業所を持ち、客先は100を超える国と地域、“THE FURTURE OF POSSIBLE”を会社の趣旨としているとある。直近の売上高や従業員数は中国ネットではよく分からない。

日本のネット上では、DJIの世界シェアは7割、輸出7割、売上1200億円(2015年)、従業員3000人、うち半分は技術者だ。企業価値は1兆2000億円と推測されている。

同社の成功は、無人自動空撮システムを確立し世界標準としたことにある。それにより新しい需要の創出に成功した。つまりシャオミのようなモノマネ中国メーカーではない。

そのベストセラー空撮機、「PHANTOM3」は、日本のAmazonは、搭載カメラの違いでスタンダードの7万2000円から最上級4Kの12万9492円まで3機種販売されている。中国の淘宝(タオバオ)網ではスタンダードの販売価格は2999元、売上は1538機となっている。天猫(T−MALL)では同じく2999元、月間売上1887機である。なおここでいう売上とは最も大きな出品者の分のみである。

今春から新型の「PHANTOM4」が発売された。搭載カメラは4Kに絞られ、販売価格は日本18万9000円、中国8999元となっている。

ドローンユーザー、アリババの実験は失敗?

影響力の強い大企業の動きを見ていこう。

ネット通販を中国に定着させたアリババ集団は、売上高では世界一の流通企業となった。当然Amazonのドローン配送Prime Airを強く意識している。そのアリババは、2015年2月4日、北京でドローン配送実験を行っている。運んだ商品は価格49元の「紅糖姜茶」だった。大手宅配会社「上海圓通」の通州配送センターから飛び立ったドローンYTO−X650は、GPSの誘導に正確に従い、無事目的地の梨園雲景南大街に到着した。所要時間37分だった。

公式発表は以上である。

ところが実際の実験は2月6日まで3日間かけて行われており、うまくいったのはこの1例だけではないかと勘繰られている。さらに同時期、上海と広州でも実施されたはずだが、こちらの報道は何もない。日頃の中国人の面子重視と宣伝上手からして、この控えめな表現は、やはりほぼ全滅を意味していよう。これにこりたのか、以後公開の実験は伝えられていない。

DJIの方では2015年12月、新コンセプト機を投入し、農業用薬品散布ドローンの分野に参入している。いつものになるかわからない宅配業務より、はるかに確実だ。