国税庁は7月1日、相続税や贈与税の課税の際、土地などの評価基準となる2016年分の路線価を公表した。それによれば、全国約33万前後の地点における標準宅地の平均路線価は前年比0.2%のプラスとなり、リーマンショック以降続いていた下落傾向が8年ぶりに上昇に転じたとのことだ。
これは、外国人旅行者によるインバウンド消費が地方にも波及したことにより、オフィス需要だけでなく、店舗やホテルなどの宿泊施設のニーズの高まりによるものとみられる。景気回復の表れと見れば好ましい結果だが、「相続」という観点からしてみれば、路線価の上昇は相続税の負担増にもつながる。心配を膨らませる世帯も少なくない。
「相続財産≒土地・建物」だけではない 金融資産にも注意
日本の相続財産の中で最も多いのが「土地・建物」と言われる。確かに、国税庁の資料にて相続財産の金額の構成比の推移をみると、直近データの2014年(平成26年)においては、土地が41.5%、建物が5.4%で、トータル約47%を占めている。しかし同時に、有価証券の占める割合は15.3%となっており、現金や預貯金等と併せると金融資産の占める割合は42%前後となり、不動産の占める割合と大して差がない。
さらに、推移そのものに目を向けると、1994年(平成6年)には土地・建物の占める割合が76%であったが、2014年には4割近く減少している。一方、有価証券については、1994年は8.3%でしかなかったのが、2014年にはおよそ2倍になっている。加えて、NISAの加入数が今年3月末時点で1000万を超える状況などから、有価証券の相続財産占有率は今後も上昇していく見込みだ。
この背景には、居住用の建物や土地を相続する場合の小規模宅地等の特例の適用が厳しくなったこと、そして株式や投資信託などでの資産運用がインターネットの普及などで手軽で身近なものになったことなどがあげられる。つまり、「相続財産=土地や建物ばかり」というのはもはや幻想にすぎず、実際には、有価証券や現金・預貯金などの金融資産も相続財産の内で高い比率を占めているのである。
金融市場の低迷は継続 相続税への影響は?
さて、ここで昨今の金融市場に目を向けてみよう。日経平均株価は、今年の始値1万8000円台半ばからスタートし、1月の黒田総裁によるマイナス金利の導入により、円安株高に誘導されるかのように見えた。
しかし、その直後の世界同時株安、中国の景気減速への懸念、原油価格の下落、さらにはアベノミクスの失敗などから投資家の間で不安が広がり、株価はあっという間に下落、この半年間で一時1万4000円台にまで落ち込んだ。現在は1万5000円台にまでは回復したものの、イギリスのEU離脱による混乱などから、しばらく株価の回復は見込めない様子だ。
さて、この事態がどのように相続税に影響を及ぼすのだろうか。相続財産に有価証券が含まれるのならば、この有価証券の評価に大いに関係する。上場株式が通常の市場価格で評価されるのは当然だが、未上場の株式等も類似業種株価(未上場の会社と事業内容が類似する業種目の上場会社の株価を参考にして計算した未上場株の価格)で評価されることがあるからだ。つまり、株式市場が低迷しているなら、相続資産である有価証券の評価額も当然下がる。結果、最終的な相続税額も下がることになるのである。