路線価よりも気にするべきは金融資産の相続対策
こういったことから、「路線価が8年ぶりに上昇に転じた」というニュースを耳にしたからといって、すぐに相続について一喜一憂する必要はない。繰り返しになるが、土地建物の相続財産に占める割合が20年前に比べて低下していること、代わりに有価証券がその比率を高めていること、そして有価証券の評価基準となる株価がこの半年低迷していたことなどから、路線価の相続に対する影響はそれほど大きくないからだ。場合によっては金融市場のマイナスが路線価のプラスに影響し、トータルでみると相続税が減少することもあるだろう。
現実には、有価証券や預貯金といった金融資産が、多くの世帯の資産の中心をなすケースが増えつつある。それを鑑みると、路線価の上昇のニュースに振り回されて、巷に流布する相続本で土地建物の評価の知識ばかりに意識が行きすぎ、もうひとつの重要な資産である金融資産の相続対策を疎かにするほうが実はまずいのだ。
有価証券を保有している世帯は、今この時点で、現役で投資活動を行っている人も多いだろう。そういう人ほど、株式投資に夢中になって日々の株価や時事ニュースにばかり意識を向けるのではなく、「今投資しているこの株や自分の経営している会社の株(自社株)は、いずれ相続財産となるのだ」という気持ちをもち、なるべくムダに税金をかけずに子や孫に移すにはどうしたらよいかをきちんと考え対策しておきたい。
金融資産は相続税対策がしづらいからこそ早期の対応を
路線価が上昇したからといって不安に駆られる必要はない。土地や建物については、その用途や条件を配慮して、評価額が低くなるようなシステムが相続税法上にあるからだ。
たとえば、お手持ちの資産が居住用や事業用ならば、相続税法上に小規模宅地等の特例などといった制度を活用することで節税をすることができる。また、評価そのものについても、自分の土地や建物がどういうものかをきちんとリサーチすれば、仮に土地が広大地や墓地の近くのもの、あるいは前面の道路が4メートル未満のものなどであった場合、評価額を下げることができる。
しかし、金融資産については、相続税法上、特別な配慮はなされていない。むしろ、生活必需品でもない流動資産であるため、場合によっては土地や建物以上に対策が必要だ。もしまだ実際の相続が生じそうな時期まで時間があるのなら、相続時精算課税制度や暦年課税贈与制度を活用して生前に贈与をしておく、預貯金については教育や結婚・育児に関する贈与税の非課税枠を利用して子や孫に移転しておくなどといった対策をしておこう。
繰り返しになるが、「相続財産≒土地・建物」は思いこみにすぎない。実際には金融資産も半分くらい占めているケースが多い。思い込みを外さないと、実行した相続対策が対策にならずに終わることにもなりかねない。目先のニュースに振り回されるのではなく、一度落ち着いて、手持ちの財産は何かを振り返りながら財産目録を作成し、じっくりと相続対策を検討することをオススメする。
鈴木 まゆ子 税理士・ライター・セラピスト
税理士鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を専業とする行政書士の夫と共に外国人の起業支援に従事。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。税金や金銭に絡む心理についても独自に研究中。共著に「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)がある。ブログ「
税理士がつぶやくおカネのカラクリ
」
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