経済や投資の話と心の問題には、何の関連性もないように思われているかもしれません。しかし、両者の間にはとても深い関係があるのです。

イエレンFRB(米連邦準備理事会)議長や黒田日銀総裁のような中央銀行のトップは、ときに「マネタリー・シャーマン」と呼ばれることがあります。シャーマンとは呪術師のこと。それなら、金融業界のトップセールスマンが精神科医に例えられるのも、不思議なことではないでしょう。

なぜ株価が上がったか

人は昔から「なぜ」「どうして」という疑問を持ち、それを解決しようとしてきました。それが自然科学の発展に大きく寄与したことは言うまでもありません。

人が疑問を持つようになったのが、経済に対しても同じこと。

「なぜ物の値段は上昇したり、下落したりするのか?」 「なぜ為替レートは変動するのか?」

経済のありとあらゆる出来事に対して「なぜ」という疑問を持つようになりました。あなたも「なぜ、今日は株価が上昇したのか?」「なぜ、今日は為替が円高に動いたのか?」といった疑問を日々感じていることでしょう。

経済学者が優れた投資家とは限らない

こうした「なぜ」を解決するために生まれたのが「経済学」です。物の値段は需要と供給のバランスで決まる。これが経済の基本的な考え方です。

経済学者たちは、人間の営みである経済活動を数式に当てはめることに、多くの労力と時間を費やしてきました。我われは、こうした先人の研究成果を経済学として学ぶことができるのです。

では、経済学を極めた経済学者は投資家としても優れているといえるでしょうか? 本来なら、彼ら経済学者は投資家としても優れた能力を発揮するはずです。彼らは経済のメカニズムを熟知しているのですから。

ケインズはご存じでしょう。マクロ経済学の基礎を築いたとされる人物ですが、彼は熱心な投資家でもありました。しかし、彼の投資家としての人生は決して順風満帆とはいえず、何度も破産の危機に直面しました。

最近では、1998年にアメリカのヘッジファンド、LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)が破綻しています。このファンドは、FRB元副議長やノーベル経済学賞を受賞した経済学者が運営に関わり、金融工学を駆使した投資手法を得意としていました。彼らはドリームチームと称されるほどでしたが、それでも運用に失敗したのです。

投資に経済学は役に立つ?

経済の専門家である彼らが投資で失敗した原因は、どこにあったのでしょうか。それは経済学という学問の盲点でもあります。「人は必ず合理的な行動を取る」という前提条件がなければ、経済学は成立しないのです。しかし、人は必ずしも常に合理的な行動を取るとは限りません。

ネットオークションで定価の何倍もの価格で取引されている品物もあります。本来であれば高値圏と思われるような株価であっても、お気に入りのブランドの株なら買ってもいいと考える投資家もいます。どんなに悪材料が出て損失が発生していても、株を売却しようとしない投資家もいます。

彼らの行動は、経済学が前提としている合理的な行動ではないのです。人は、必ずしも経済的に合理的な行動を取るわけではありません。むしろ、人は不合理な行動を取るものだと考えられるようになってきました。そして、そこから新たに生まれた学問が「行動経済学」です。


人は利益の喜びを得ることよりも損失の痛手を避けたがる

ここで、投資について考えてみましょう。

人は損失により強く反応します。1万円の利益よりも、1万円の損失のほうに過敏になるもので、同じ1万円でもその価値は随分と違ってくることでしょう。

投資をしていれば、勝つことも負けることもあり、多くの人は、小さな利益しか得られず、負けたときには大きな損失を被ることになります。

その理由は、利益と損失の受け止め方が異なるからなのです。1万円の利益確定はたやすくても、1万円の損切りは簡単ではありません。そして、損失を膨らませてしまうのです。

このように、投資において、人は必ずしも合理的な行動を行っているわけではありません。重要なのは、むしろ人間の心理的な欠点をいかに克服するかということなのです。

投資家に対し適切なアドバイスを行う金融業界のトップセールスマンは、こうした心理的な欠点を知り抜いています。その点では、彼らトップセールスマンはまさに精神科医的な存在といえるのではないでしょうか。

高村 駿(コウムラ シュン)
銀行員として営業統括部門の責任者として経験を積む。 資産運用、税務、財務など幅広い分野の経験、知識を活かし、現在は富裕層を対象に資産運用、コンサルティング業務を行う専門部署で活躍。 豊富な実務経験を活かし現在はフリーのライターとしても活動中。

(提供: DAILY ANDS

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