ヘリコプターマネー,財政,デフレ
(写真=PIXTA)

デフレ完全脱却を目指す金融・財政政策の議論は、左から右へ極端に振れている。

左の議論は、財政政策は金利上昇と為替高をもたらすために効果がない。デフレは貨幣的現象であり、需給ギャップも金融緩和のみで解消できると、いたずらに金融緩和だけを拡大していった。

右の議論は、日銀がマーケットから資産を買い入れ、マネーを供給するという既存の金融政策で、市中にマネーが行き渡らないため効果に限界がある。需給ギャップを埋めるための需要を、直接的に拡大させる減税や支出拡大をともなう。財政政策の財源であり返済の必要が無い国債を、日銀が直接引き受けるという、ヘリコプターマネーである。

企業貯蓄率がプラスという異常状態に目を向ける

なぜ、中道の現実的な政策の議論が置き去りにされるのだろうか?

日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が恒常的なプラスの異常な状態が継続していることだ。その結果、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっている。

そして、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度で、財政拡大が不十分となっている。それにより、企業貯蓄率と財政赤字の合計である国内のネットの資金需要(マイナスが強い、名目GDP比)が消滅してしまっていた。ネットの資金需要が存在しなければ、金融緩和によって間接的にマネタイズするものが存在しない。金融機関から企業を通してマネーが市中に循環・拡大するメカニズムが喪失し、金融政策のみで需給ギャップを解消することは困難である。

言い換えれば、循環的な景気回復や成長戦略などにより企業のデレバレッジが緩和(企業貯蓄率の低下)するとともに、財政政策が拡大すれば、ネットの資金需要(企業貯蓄率と財政収支の合計)が復活し、金融緩和の効果も復活するはずである。

金融緩和の効果を限定的にしたことがアベノミクスを止めた

実際に、企業貯蓄率の低下とともに、震災復興とアベノミクスの経済対策で財政政策が緩和されたことにより、ネットの資金需要が復活したのが、アベノミクス1.0の基礎となった。その基礎の上に、大規模な金融緩和が行われ、復活をしたネットの資金需要を日銀が間接的にマネタイズする形が整い、アベノミクス1.0が完成した。

マネーの循環・拡大は、円の供給の増加を意味するため、円安の力も強くなった。株価上昇・円安・物価上昇、そして名目GDPが縮小から拡大に転じ、デフレ完全脱却へ向かうモメンタムが生まれた。円安、インフレ期待の上昇による実質金利の低下、株価上昇による期待ROEの上昇、そして名目GDPの拡大によるビジネス環境の改善が、企業を刺激し、企業貯蓄率は0%に向かって低下していった。

しかし、グローバルな景気・マーケットの不安定感を警戒した企業行動の慎重化(企業貯蓄率の短期的なリバウンド)と、消費税率引き上げと税収の大幅増加、そして歳出の抑制などにより財政が過度に緊縮気味となり、ネットの資金需要が消滅してしまい、アベノミクス1.0の基礎が瓦解してしまった。

こうなると、基礎が無い(マネタイズするものが存在しない)ため、金融緩和の効果は極めて限定的になってしまう。マネーの循環・拡大は滞り、株価下落・円高・物価停滞となり、デフレ完全脱却への向かうモメンタムも止まり、アベノミクス1.0は終焉してしまった。