金融緩和ではなく、財政拡大からネットの資金需要をマネタイズ

アベノミクス1.0の基礎は復活したネットの資金需要で、基礎を活かすトリガーはそれをマネタイズする大規模な金融緩和だ。終焉は財政緊縮と企業行動の慎重化による、ネットの国内資金需要の消滅だと定義できる。

そして、金融政策の限界が意識されて、議論が左からヘリコプターマネーの右に一気に飛んでいってしまった。しかし、デフレ完全脱却のモメンタムを復活させるアベノミクス2.0に、そのような極端な議論は必要なく、中道の現実的な政策で十分だ。日銀の大規模な金融緩和は継続し、かなり巨額のネットの資金需要を間接的にマネタイズする用意ができていることが、アベノミクス2.0の基礎だ。

この基礎の上に、財政による大規模な景気対策とグローバルな景気・マーケットの安定化による企業活動の回復(企業貯蓄率の再低下)が合わさり、ネットの資金需要が復活すれば、アベノミクス2.0が完成する。

アベノミクス1.0と2.0も、ネットの資金需要を金融緩和によって間接的にマネタイズする形は同じであるが、その順番が逆である。1.0のトリガーは金融緩和、2.0のトリガーは財政拡大であろう。現在は、アベノミクス1.0が終焉し、財政拡大と企業活動の回復により2.0として復活をする端境期にあると考えられる。

赤字国債を引き受けず、現行の金融緩和で十分

そして再び、マネーは循環・拡大を始め、株価上昇・円安・物価上昇、名目GDP成長率の加速という、デフレ完全脱却へ向かうモメンタムが復活することになるだろう。

企業活動の活性化が加速し、企業貯蓄率が正常なマイナスに戻り、過剰貯蓄が総需要を破壊しなくなる、日本経済の正常化へ向かっていくことになる。グローバルな景気・マーケットの不安定感、そして企業と消費者心理が萎縮してしまっている中では、財政を拡大し、ネットの資金需要を復活させ、金融緩和の効果を強くすることが急務である。

市場経済の失敗の是正、教育への投資、生産性の向上や少子化対策、長期的なインフラ整備、防災対策、地方創生、そして貧富の格差の是正と貧困の世代連鎖の防止を目的とした財政支出を増加させる必要があろう。

国民の現在の生活を困窮させる拙速な財政緊縮への使命感より、明るい未来と夢を感じる財政プロジェクトのアイディアを競う現実主義に財政政策の舵を切る必要がある。緊縮一辺倒のロジックが妨げとなり、必要な財政プロジェクトのアイディアは潰されてきてしまい、早急な積み上げは困難になってしまっているようだ。

その場合、ネットの資金需要が復活するのに十分な額だけ、赤字国債でファイナンスし、大規模な減税を実施する必要がある。その返済の必要の無い赤字国債を、日銀が直接的に引き受ける必要(ヘリコプターマネーの必要条件)は無く、現行の金融緩和の枠組みで十分だろう。

フレキシブルな景気対策で、ヘリコプターマネーを飛ばさない

ネットの資金需要が縮小してしまわないために、経済状況をみながら財政はフレキシブルに、補正予算による景気対策を実施(毎年春には必ず)する必要がある。そのための財政プロジェクトの引き出しは、いつもフルにしておくべきだ。

ネットの資金需要が適度で、過度に膨張しなければ、赤字国債を発行したとしても金利上昇は金融緩和で抑制できる。名目GDPがしっかり拡大するため、政府債務のGDP比は低下していき、経済再生による財政再建という形を維持することができるだろう。

財政再建・金融緩和という既存の政策の組合せはもう無効であるが、ヘリコプターマネーに飛んでいく必要はなく、中道の現実的な政策で十分だ。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト

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