「当たり前」の存在になるため、SansanとEightだけに集中する

(写真=The 21 online/寺田親弘(Sansan社長))
(写真=The 21 online/寺田親弘(Sansan社長))

――当初、御社のサービスはSansanだけでしたが、2012年からEightも始められました。どのような狙いがあったのでしょうか?

寺田 二つあります。一つは、Sansanをいくら広げても、届く人には限界があること。Sansanは法人向けなので、名刺管理に困っていても、勤めている会社が導入しなければ、使えないわけです。その人たちに届けるために、個人向けで無料のサービスを提供するのは、いわば必然でした。

もう一つは、名刺をソーシャルとつなげることで、名刺のあり方そのものを変えられるのではないか、ということです。名刺は、今の言葉で言えば、ものすごくソーシャルでモバイル性の高いものです。これだけソーシャルでモビリティに富み、世界中に普及しているビジネスツールは、他にないのではないでしょうか。名刺のソーシャルな価値を最大限に引き出すことは当社がやるべきだし、そのためのリスクは取るべきだと考えました。

――採算は度外視ということですか?

寺田 採算は今でも取れていません。細かく課金していくモデルも考えたのですが、名刺のソーシャルネットワークとしての価値を引き出すためには、まずはあまねく普及することが不可欠です。そのためには、無料か、少額でも課金されるかとでは、大きな違いがあります。

今はEightのユーザーが100万人を超えてきて、ソーシャルネットワークのイメージが見えてきたかな、というところです。具体的には、名刺管理をコアとしながらも、フィードを搭載し、ビジネスSNSの方向へ進化しています。紙の名刺を介さずにつながる機能もありますし、BluetoothやWi-Fiを使ってスマホ同士で名刺のデータをオンラインで交換する機能もあります。

マネタイズについては、一部、有料のプランを設けたり、広告を掲載したりということを、実験的にしているところです。これからさらに300万人、500万人とユーザーを増やして、ソーシャルな価値をさらに高め、ビジネスとして成立させることを目指しています。

――Eightのユーザーになったのをきっかけに、自分の会社でSansanを導入する、というケースはありますか?

寺田 Eightへの投資を正当化できるほどではありませんが、その流れはありますね。ただ、EightがビジネスSNSになっていく一方で、Sansanはあくまで企業が組織の資産として名刺を管理するためのサービスですから、だんだんと両者は離れてきています。

――御社のサービスの特長の一つに、取り込んだ名刺の情報をオペレーターが入力するので、正確性が高いということがあります。しかし、事業を拡大していくとオペレーターの数も増えていくので、コストが高くなるのではないでしょうか?

寺田 テクノロジーもかなり使っています。当初はすべてオペレーターが手入力をしていましたが、今は、手入力が必要な部分と機械で自動的に処理できる部分を組み合わせて効率的にデータ化していますから、名刺1枚をデータ化するコストは徐々に下がっています。そのぶん、お客様にお支払いいただく料金も下げてきています。

――技術開発にも力を入れられているのですね。

寺田 画像解析や機械学習の技術者だけでも10人近くいて、専門の部署で研究を続けています。スマホのカメラで撮った名刺の写真についた陰影を取って、機械が文字を認識しやすくするためには、どうすれば良いのか。統計的に名刺のどこに会社名が書いてある確率が一番高いか。当社はそういったことをひたすら研究していますから、世界で一番名刺に向き合っている会社だと思います。

――そうした技術を使って、SansanとEight以外の事業も始めようというお考えは?

寺田 「ビジネスの出会いを資産に変え、働き方を革新する」という当社のミッションがあり、それを実現するための具体的なビジネスモデルとしてSansanとEightを提供しているので、この二つを深めていきます。

こと日本のベンチャーにおいてはさまざまなサービスを展開する印象があるかもしれませんが、世界で使われているサービスを見れば、たとえばフェイスブック社はFacebookしかやっていませんよね。エバーノート社もEvernoteだけ。そのように一つのサービスだけに集中して深掘りしないと、世の中で「当たり前」になるようなサービスは作れないと思っています。

ただ、Sansanが企業のインフラに、Eightがビジネスパーソンのインフラになれば、その上に乗るサービスは多様性を帯びてくるでしょう。LINEというインフラの上でゲームができたり、音楽が聴けたりするのと同様です。