銀行員の間で話題になっている本がある。ある週刊誌には「地方銀行が次々にまとめ買い」「銀行員はこの本を読まないと仕事にならないらしい」そんな見出しが踊っていたほどだ。その本とは『捨てられる銀行』(講談社現代新書)である。なぜ、この本が銀行員にもてはやされるのか。いや、そもそもこの本にそれだけの価値があるのだろうか。

「感想文を提出せよ」火のない所に煙は立たぬ

「頭取が役員全員にこの本を読んで感想文を提出するように指示したらしい……」「俺たちもこの本読んでおいた方が良いぞ」銀行のありとあらゆる場所でこんな噂が広まっていた。末端の銀行員にことの真偽を確認することはできない。私はある人から聞いた噂であり、その人も噂を聞いたに過ぎない。そこへもって上述の週刊誌の記事である。火のない所に煙は立たない。

この話を聞いたときの行員の反応は様々だ。銀行員にも様々なタイプの人間がいる。銀行に絶対忠誠を誓う連中は我先にこの本を買って読んだ。彼らはこの本の内容とは関係なく、この本を持っている(必ずしも読んだわけではない)ことで免罪符を手にしたかのように「素晴らしい内容でしたね。銀行員なら必ず読んでおく必要がありますね」などと悦に入っている。

業務を遂行する上で必要な規定やマニュアル、法令などを読むことを指示されれば当然それに従うべきである。しかし、件の本はあくまで個人の趣味の範囲内だ。それを強要されることそのものに強い抵抗を感じる。ましてや、その内容といったら・・・

では、私も感想文を書いてみよう

しかし、これだけ話題の本なのだから読まないという手はない。私の顧客も何人かは既にこの本を読んでおり、共通の話題という点からも読んでおく必要があった。

私の感想をここで披露しよう。この本を書いた著者は共同通信社の記者である。したがって、記者の視点から書かれていることを認識しておく必要がある。事実関係の裏取りはしっかりと行われており、信憑性の高い内容であると感じさせられる。たとえば、森金融庁長官の金融に対する考え方、過去の金融検査マニュアルの弊害など多くの事実を調査し、多くの人に取材を積み上げ、文章が組み立てられている。さすがは記者の仕事であると感心させられる。

だが、目新しい話は何も無い。新聞を読み、経済誌に目を通していれば、すでに報道されている事実ばかりだ。それらの事実の背景を記者の視点で改めて解説したに過ぎない。ついでに言うならば、著者独自の提言があるわけでもない。こんな取り組みを行っている銀行もある、顧客からこんな苦情を言われた銀行もある(これが捨てられる銀行ということだろう)、そんな具体例が挙げられている。それはあくまで取材により得られた情報の羅列でしかない。