今秋に一般有権者投票を迎える米大統領選。11月8日の投票日に向けて、共和、民主両党の正式な候補指名が終わり、米共和党のドナルド・トランプ氏対米民主党のヒラリー・クリントン氏の構図が公式にも確定した。
次期米大統領をめぐる組み合わせにしては、異色だと言って差し支えないだろう。トランプ氏は当初は、共和党の大統領候補の指名を獲得する可能性が低いとみられていたものの、7月19日の党大会で共和党の大統領候補の座が手中に転がり込んだ。
TVのトークショー司会者としても歯に衣着せぬ独特の物言いで人気を得ていたとは言え、1年前の出馬宣言時点で、「泡沫候補、トランプ」が共和党の指名獲得に成功すると見る専門家は皆無に近かった。「不動産王」と言われるように、不動産業で身を興しており、もし米国大統領に就任すれば、「実業家として初めて」の米国大統領となる。
一方で、クリントン氏がもしも、米国大統領になっても、「初」となる。初の「女性米国大統領」だ。女性の国家首長としては、英国で自由化を進めたマーガレット・サッチャーや、現ドイツ首相のアンゲラ・メルケル氏などもいるが、米国大統領としては初の出来事だ。
また1993年から8年間にわたって大統領をつとめたビル・クリントン氏を夫に持つ、元ファーストレディーは政治的な経験も豊富。オバマ政権で国務長官を務めている姿をすぐに思い浮かべる読者も多いかもしれない。
トランプ米大統領実現で「日本に核武装を促す」可能性も
日本経済だけではなく、世界的に大きな影響力を誇る米国大統領の選挙で気になるのは、クリントン、トランプの両候補がどんな政策を掲げているか。共和党、民主党それぞれが政権を獲得した場合には、日本への影響も大きいとみられるだけに、気になるところだ。両候補の政策の概略を見ておこう。
まず、最も違いの際立つのが、対外政策のスタンスだ。貿易や移民、安全保障といった分野だと言い換えてもいいだろう。トランプ氏の旗印は「米国第一」。グローバリズムを抑え込むことで、米国人の富と職と安全を確保すると同氏は言う。
トランプ氏の主張は過激で、「イスラム教徒の入国禁止」など無謀にさえ聞こえる発言は党大会での指名受諾演説以降やや抑制的となったかに見えるが、「不法移民対策として国境に巨大な壁を建設」、「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)もNAFTA(北米自由貿易協定)も、米国にとってより公平なものに改定しない限り破棄」など、目を剥くような主張を連発する。
ほかにも、中国の知的財産権侵害を批判し、暗にではあるが日本の円安誘導にも否定的だ。安全保障に関してはオバマ政権の中東外交の拙劣さがイスラム国の台頭を産んだと非難。「弱体化した米軍を再建し、NATO(北大西洋条約機構)を含め米国が防衛する国々に相応の負担を払うよう求める」とも語り、在日米軍駐留経費負担の見直しや日韓両国の核保有による自衛を促す姿勢さえ示したこともある。