オバマ政権の路線継続が期待される「クリントン米大統領」

一方、クリントン氏は安全保障に関する限り、民主党の中ではかなりのタカ派で通っている。国務長官時代にイラク戦争の開戦を肯定し、イスラム国やアサド政権(シリア)に対しても「封じ込めではなく打倒を」と強硬姿勢を示してきた経緯がある。

ただ、同盟国重視という戦略論ではオバマ路線継承の現実派だ。とりわけ日米同盟を中心に据えたアジア重視への転換を志向しているとも見られている。

他方で、通商政策では、まだまだ高い成長率を示す中国へは強硬な姿勢を示す。中国の不公正貿易に対する報復をクリントン氏は示唆しており、日本を含む為替安に誘導している国に対しては批判的でもある。本来的には、民主党は保護貿易に、共和党は自由貿易に傾く伝統を持っており、今回はその点ではねじれの関係にあると言えるだろう。

一方、税制への取り組みにも両氏の違いが表れている。クリントン氏は、富裕層・大銀行・海外移転企業などへの課税強化を標榜しているのに対して、トランプ氏は法人・中所得層中心にかなり大規模な減税を打ち出している。「大きい政府」志向の民主党、「小さな政府」志向の共和党という図式に沿った形となっている。

男女賃金格差の是正などでは共通する両候補の社会政策

クリントン氏が男女賃金格差の解消、トランプ氏が最低賃金の引き上げを通じてそれぞれに「格差」問題への関心を表明している。そして、ともに積極的なインフラ投資を主張しており、似た政策を表明していると言えそうだ。

ほかにも社会政策では、最大の争点は医療制度改革(いわゆる「オバマケア」)への姿勢。ビル・クリントン政権の時代から公的医療制度の民主党案作りに関わってきたクリントン氏はオバマケアの拡充を掲げるが、トランプ氏は市場原理に拠った民間医療保険の普及を謳っている。

人工妊娠中絶や同性婚を容認し死刑制度廃止や銃規制に前向きなクリントン氏、その裏返しを唱えるトランプ氏という構図は、民主党と共和党の姿勢をほぼ反映している。

日本にとって望ましい米国大統領はどっち?

過去を振り返ると、民主党大統領時代の米国は厳しい対日通商政策を突き付けてくることが多かった。自由な市場経済を理想とする共和党に比べ、民主党はその支持基盤である労働組合やマイノリティーを守るため、日本の貿易競争力を少しでも抑えたいという意図が働いていたからだろう。

しかし、今回ばかりは共和党のトランプ路線が実現した場合、通商・安保を中心に日米間の摩擦が高まることは火を見るより明らかだろう。共和党主流派幹部の多くは指名党大会を欠席し、世界の主要メディアもそのほとんどが、トランプ氏の「米国第一主義」を危険な時代錯誤と非難している。

「できすぎる女性」ヒラリーも100パーセント愛されている人物ではない。内向きな愛国主義や反「既成政党」のうねりが思いがけず大きな怒涛となって有権者を飲み込んでしまった実例を見たばかりの我々にとって、米国世論の行方は11月まで全く目を離せないものと見るべきだろう。(岡本流萬)