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(写真=PIXTA)

日本の中古不動産市場を説明する時に、よく「アメリカに比べ流通規模が小さすぎる」と言われます。

51万3,000戸(2013年日本)対525万戸(2015年アメリカ)。これが日米の中古不動産の流通の差です。

不動産流通経済協会(FRK)の推計によると、日本は新築着工件数98万戸の約半分。全米リアルター協会(NAR)のデータでアメリカは新築50万戸の10倍です。

人口が日本の2.5倍もあるとはいえ、何が違うのでしょうか? ここでは、アメリカの不動産市場について日本との比較も見ながら解説します。

アメリカの不動産流通の変化——ネット流通網の整備

アメリカの中古住宅の流通量は、1990年の300万戸から2005年には倍以上の700万戸になりました。リーマンショック後に流通量は減りましたが、再び盛り返しています。その理由は人口増やベビーブーマー世代のリタイアによる移住の需要などです。

それだけではありません。全米のブローカー(不動産事業者)とそこに属するエージェント(販売員)で作る全米リアルター協会(NAR)の不動産流通システム・MLS(Multiple Listing Service)と、そのIT化が流通量の増加を下支えしました。

NARは、1908年にできた組織です。F・ルーズベルト大統領のニューディール政策で住宅ローンの証券化が進み、世界中からアメリカの不動産に資金が集まりました。購買意欲も高まり、不動産取引情報の透明さ、公正さを示す仕組みが必要になったのです。

70年代に紙ベースで全米の物件情報を集めて作ったMLSが90年代後半に入ってIT化され、現在は世界46か国の物件情報が日本語を含む11か国対応でネット検索できるようになっています。

アメリカも、MLS以前は不動産業者が情報を握っていました。買い手を自分で見つければ売買双方から手数料を得ることができたので、大手の不動産業者になればなるほど情報を囲い込もうとする閉鎖的なマーケットでした。

しかし、買い手を見つけるのに数カ月もかかっていては、コストがかさみます。取引のスピードを上げる方がメリットになると腹をくくった結果がMLSでした。

MLSとは地域ネットワークの集合体です

MLSは地域ごとに約900サイトがあります。すべて同じ仕様となっています。物件の広さ、価格、修繕、売買履歴、登記状況、固定資産税、災害リスク情報、屋内外の写真などが含まれます。売り手、買い手が見る一般情報と、NAR所属のブローカー、エージェントしか見ることができない情報に分かれています。

日本にも情報ネットワーク「REINS(不動産流通機構)」がありますが、アメリカとは成り立ちも機能も異なります。一生に5〜6回は住み替えるアメリカと、「一生に一度の買い物」という意識が強い日本では背景が違いますが、MLSのような公開性とスピード感は、事業者にも消費者にもメリットが高いでしょう。

アメリカならではの『ロックボックス(情報履歴付きの鍵)』

NARは「物件情報は24時間以内にMLSに登録する」ことや、「MLS登録後48時間以内にその物件にロックボックス(情報履歴を記録できる情報端末の鍵)を取り付ける」ことを定めています。

ロックボックスは、売り家の鍵を入れて玄関に付ける安全性の高いキーボックスと、それを開けるキーパッドから成ります。買い主候補が買い手エージェントとともに訪れて、ドアを開けた記録がMLSサーバー経由で、売り主と専任媒介契約を結んだブローカーに届きます。売りと買いのエージェント同士が情報をやりとりすることもできます。

不動産情報がネットで公開されても、専任媒介契約期間中は他のセールスが禁止されており、これを破るとNARが会員資格を剥奪します。また契約書式の統一化も図っています。州、自治体ごとに違う契約書に対応し、ここ数年は、電子署名の仕組みも導入しています。