「子供の貧困」を放置すると約40兆円の社会的損失

これまで述べた通り、日本では教育格差が「経済格差」に大きく影響します。ここで重要なのは、経済格差が大きな「社会的損失」をもたらす可能性が高いことです。

日本財団の『子供の貧困対策に関する大綱』によると、15歳以下の貧しい子供たち全員の「教育を受けられない状態(中退・進学の断念)」を放置すると約40兆円の所得が失われると試算しています。

つまり、貧困の子供たちをそのまま放置すると学習の機会が少なくなり、就職も不利になって低所得の状態が続く可能性が高まります。その子供たちが結婚して、子供を授かった場合、さらに低所得の家庭で学習の機会も失われるという「貧困の連鎖」が繰り返されることにもなりかねません。

その貧困家庭が、生活保護を受ける状態になると、社会保障の負担も当然増えることになります。こうした「貧困の連鎖」は、私たちの社会に莫大な損失をもたらすことになるのです。

一方、貧しい子供たちの進学率を上げる改善シナリオを行えば、社会負担も軽減されます。貧困の子供たちの「教育の機会」が増えると、就職も有利に働き、経済状態も改善されます。そうなると納税額も多くなり、社会全体に好循環をもたらすことになります。

私たちの社会が直面する「子供の貧困問題」は、他人事ではすまされないのです。

「子供の貧困」を支援するための様々な活動

そうした中で「子供の貧困問題」を少しでも改善しようとする活動も見られるようになりました。行政の支援は、内閣府のWebサイト『子供の未来応援プロジェクト』で各種の支援・サービスが紹介されています。

また、民間による支援も見られます。いくつか紹介しましょう。

『NPO法人キッズドア』
貧困の連鎖を断ち切るための教育支援事業を展開しています。低所得・ひとり親・児童養護施設などの子供で、学習が困難な小学生から高校生までを対象に無料の学習会、キャリア教育という学習支援を行っています。

『子ども食堂』
「子どもは無料、大人は300円」と格安で食事を提供してくれるのが『子ども食堂』です。全国で30か所以上開設されています。子供の「孤食」を防ぐだけでなく、学習サポート、地域での居場所づくりまで視野に入れた活動も見られます。

『チャンス・フォー・チルドレン』
子供たちに塾や習い事などに利用できる「学校外教育クーポン」を無償で提供しています。クーポンは、教科学習、習い事、スポーツ、文化活動、体験活動などに利用することができます。貧困家庭に、お金で支援すると親が別の目的で使ったりするケースが危惧されます。学習目的でしか使えないクーポンを提供し、目的を明確にした支援は社会的にも意義のあることです。

その他にも、民間で様々な取り組みがなされています。興味のある人は、調べてみてはいかがでしょうか。

長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。