CPI,消費者物価,2%
(写真=PIXTA)

政府と日銀は2%の物価安定目標を掲げて金融・財政政策を行ってきたが、物価への下押し圧力は依然強く、CPIは若干のマイナスで推移している。2016年7月の公表(8月26日)から消費者物価指数の基準が改定される。

現指数は2010年を基準とし(指数を100とする)、当時の家計の消費動向を基にウェイトを設け計算されている。新基準では、2015年を100とし、家計調査に基にづき2015年の品目ごとの平均の消費支出金額(一世帯あたり一ヶ月間)を基に、新しいウェイトが計算され指数が作られる。指数を100に戻すことにより、経過とともに大きくなるラスパイレス指数の上方バイアスがなくなる。

料金体系が複雑なサービスはモデルケースで対応

経済環境の変化により、家計消費の中での重要度が過去5年で変化しており、2015年基準では新しく33品目が追加され、32品目が廃止される。また、8品目においては4品目に統合され、新基準では品目数は585品目になる。

モデル方式も改定され、航空運賃や電気代、携帯電話通信料などの一部の品目は、料金体系が多様で価格も購入条件によって異なる。そのため、これらの価格変動を的確に指数に反映させるため、品目ごとに典型的な利用事例を、モデルケースにすることなどにより設定した計算式(モデル式)を用いて、月々の指数を算出している(現行のモデルは最安価格を取り込む)。これらについては、価格を合成する際の比率等の更新、採用する価格及びモデルケースの見直し等、精度の向上に必要な改定を行う。

6月の統計委員会で、家賃の品質劣化の調整が当時日銀調査統計局長の前田委員の発言で、注目されるようになった。日本の住宅ストックは老朽化が進んでおり、現行のモデルでは住宅が時間を経るごとに劣化することを考慮せず、CPIに下方バイアスがかかっているとの指摘だった。

CPIで家賃が占める割合は約2割程度あり、仮に家賃の品質劣化を調整したら、約0.2%程度の上方修正になるのでは、との日銀の独自試算が公表された。発言を受け、統計委員会の部会で検討がなされ、今後の課題として公表された。しかし、部会が問題視している点は多く、実際に家賃の品質調整を、今回の基準改定に間に合わせるのは困難、という見解が示されている。

リフォーム・電気代は比重増、テレビなどは比重減

問題点として挙げられているのは、品質調整をするにあたって、建築物に関する詳細なデータが必要になること、現段階では正確なデータが入手できるのか、またそのデータが安定的なものなのかという検討が、なされていないことのようだ。また、データを新たに入手することで、どれだけの人的・費用的負担が増えるのかも、今後の検討課題として挙げられている。

結果的に、政府への答申で統計委員会は整備への課題を解消するのに、時間及びリソースが現段階では無い。今後の課題とし、「2017年度の可能な限り早期に、試算結果を含めた研究成果を公表するとともに、継続的かつ幅広い検討・情報提供に努める」としている。結果として、今回のCPI基準改定時には、家賃の品質調整は含まれない。

過去2回の基準改定では、値下がりの激しい家電製品の影響で指数が下方修正されたが、そのような品目のウェイトが下がるため、大幅な下方改定の可能性は小さいとみられる。航空運賃や携帯電話など、料金体系の複雑なサービスについて、典型的な利用事例を反映するような採用価格の算出方法に精緻化するたため、最安値の料金・運賃だけで計算されなくなり、大きな下方バイアスは消える。

調査対象に追加するのは、デコポンやコンビニコーヒー、豆乳、補聴器などである。逆に廃止するのはお子様ランチや筆入れ、レモン、ワイングラスなどである。比重が高まるのはリフォームや電気代、逆に比重が下がるのはテレビなどだ。このため、燃料価格の上下に応じた電気代の上下で、今までよりもCPIが大きく振れる可能性はある。このところ価格が反転傾向にあるテレビは、比重が小さくなることでCPIを押し上げる効果が小さくなるが、販売不振期の大幅な値下げで、CPIを大きく押し下げる効果も小さくなる。