ユーグレナ、サイバーダイン、ペプチドリーム等など、大学から生まれたベンチャービジネスの盛況が続いている。個人投資家の間での人気も高く、大きなキャピタルゲインを得るチャンスも、増えているという。

大学の特許を企業の開発に 大学発ベンチャーを支えるファンドとTLO

慶応大学と野村ホールディングス <8604> が、2015年12月に共同ではじめたベンチャーキャピタル「慶応イノベーション・イニシアティブ(KII)」は、8月に資金総額を当初計画より50%増加して150億円規模にすると発表した。この背景には、多くの大学発ベンチャーの成功によって、新たな成長分野に挑戦する投資ニーズが急拡大していることがあげられる。また最近の低金利下において、メガバンクだけでなく地銀・生保・事業会社も、大きな投資リターンが期待できる、大学発ベンチャーへの関心を高めている。

経済産業省によれば、大学発ベンチャーは15年12月末時点で1773社。黒字は全体の56%と前年の43%から増加している。ブルームバーグのデータによれば、東証マザーズ市場に上場する時価総額の上位10社のうち半数が、大学発の技術系ベンチャーが占めているという。

実際、大学発ベンチャー企業に投資する、民間のベンチャーファンドは増加し続けている。もともとは東京大学や京都大学などへの、政府からの官製ファンドが呼び水となった。その後、民間のベンチャーファンドも加わり、多くの大学でファンドが組成されている。

大学発ベンチャーが増加している理由のひとつとして、TLO(Technology Licensing Organization=技術移転機関)の存在があげられる。TLOとは、学内の研究成果を特許化し、その特許技術を企業に移転する法人のことだ。このサイクルで得られた収益を再び、研究開発にフィードバックすることを目的としており、産学連携による「知的創造サイクル」の中核をなしている。

きっかけとなったのは、98年に施行された「大学等技術移転促進法」。01年には「大学発ベンチャー1000社計画」が発表され、以降TLOが促進した大学発ベンチャーは14年までに1112社。売上げ1600億円、雇用者1万1000人という実績を上げている。

3つの投資メリットと「象牙の塔」のビジネス感覚

大学発ベンチャーには、民間のベンチャーへの投資とは異なる、3つのメリットと研究機関だからこそのリスクがある。

(1)優秀人材が集まっている
研究開発に必要な人材がそろっているという点だ。優秀な科学系・技術系人材は、大手企業でもそう簡単に採用することはできない。大学発ベンチヤーであれば、指導教諭も学生も、専門分野に特化した人材が、最初から集まっている。

(2)研究開発の初期費用がかからない
研究開発に必要な設備などの技術シーズは、大学内で長年の研究開発で生まれた成果であり、そのための予算も当初から大学内で配分されたものだ。一般企業であれば、研究開発そのものに、多大な費用が必要になるのに比べて、初期費用がかからないというメリットは大きい。

また大学という自由な雰囲気で生まれる成果は、コストを意識するあまり、萎縮しがちな民間企業の研究開発部門に比べて、より先端的であることも指摘できる。

(3)上場の可能性
投資面から見ても、大学発ベンチャーはキャピタルゲインだけにとどまらない、大きな投資効果が期待できる点が見逃せない。それがIPO(新規株式公開)だ。すでに現在までに、大学発ベンチャー24社がIPOを達成しており、今後投資件数の3割が上場すると予測する投資会社もいる。

資金を投入するファンドにとって、アクションが早ければ早いほど、大学発ベンチャーへの投資妙味は大きいといえるだろう。