懸念すべき点は大きく2つある。第一に、大学発ベンチャーの経営者や取締役の多くが、大学教員や学生で占められ、ビジネス経験が不足している点。第二に収益化に関する意識が低く、なかなか黒字化しない点。さらにいえば、IPOを急ぐあまり財務体質の健全化を疎かにし、結果的に一般投資家の信頼をなくしてしまいかねない点もリスクといえるだろう。

資金面だけでなく経営アドバイザーとして、こうした状況に陥ることを防ぐことのできる、ベンチャーファンドの多角的な支援は、さらに重要性を増していくだろう。

米国にあって日本にないもの それは大学発ベンチャーを成熟させる仕組み

大学発ベンチャーの先進国、米国の事例から日本に必要な物を考えていこう。同国には世界的企業になった、大学発ベンチャーがいくつかある。たとえばGoogleはスタンフォード大学発の、Facebookはハーバード大学発のベンチャーだった。これらの大学発ベンチャーの企業価値や雇用創出が、近年の米国経済に果たした貢献は、はかり知れない。

成功事例の背後には、ベンチャーファンドからの多額の資金投入があった。米国でもとりわけベンチャー起業数が多いといわれる、カリフォルニア工科大学で誕生したアプライド・バイオシステムズという会社の例を見てみよう。80年代から、DNA配列を調べる装置を開発していた同社は、ベンチャー・キャピタリストから数百万ドルの資金提供を受けたことを飛躍のきっかけにした。最終的には93年に、3億3000万ドル(当時のレートで約396億円)という高額で買収されるに至った。

高い企業価値を持った大学発ベンチャーが、経済に貢献している米国と比較すると、日本の大学発ベンチャーはまだ発展途上だ。米国での大学発ベンチャーの設立数は、80年以降累計5000社を超え、2000年以降で年間400社ある。日本2015年時点で約1800社と米国の半分以下、今後の飛躍的な増加と設立・成長のためには、それを支援する仕組みづくりやその強化が必要不可欠だ。

TLOの整備、政府からの資金援助、民間のベンチャーファンドの増加などを背景に、大学発ベンチャーは、今後ますます増加していくことが予想される。ただし、それには、「研究→事業化→大学発ベンチャー→IPO→キャピタルゲイン→再投資」というエコシステムの確立が必須だ。

エコシステムが実現できれば、投資対象として魅力的というだけでなく、産業力強化の切り札として、日本の経済再生にも大きく貢献していくことが期待できるだろう。(ZUU online編集部)

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