最近の代替品・そして技術革新への期待
今回、ニホンウナギがワシントン条約の規制対象となることは避けられたが、ウナギの減少は予断を許さない。ただ、近年の目覚しい技術革新を見ると、状況が変わる可能性が感じられる。
ひとつが代替品だ。過去にも、漁獲量減少対策として、種類違いのウナギや養殖品、輸入品による代替が行われた。最近では、別の魚や他の食品がウナギの代わりに使われ、サンマやアナゴ、豚肉や鶏肉のかば焼きが土用の丑の日を狙って販売された。
今年2016年には近畿大学の養殖ナマズを使った「かば焼き丼」が大手スーパーで販売され、注目を浴びた。かなりウナギに近い味だったというので、もし量産できれば、市民権を得て日常の代替品となるかもしれない。他の魚は開発魚といわれる代わりの魚が用いられているケースも多いと考えれば不思議なことではない。日常の代替をナマズが果たせば、ウナギの個体数確保に寄与する。これから、どれだけ本物のウナギの味に近づけられるか注目したい。
ただ、代替品があっても、ウナギがまったく消費されないわけではない。それどころか中国や韓国でのウナギ消費が増加している可能性が各種調査で指摘されている。また、環境の変化で個体数が減っているならば、ウナギの消費量だけの問題ではない。
そう考えると、やはり本物のウナギが増えてほしい。実はいまだにウナギの生態には謎が多く解明されていないところがあるが、2010年4月には、長年に渡って研究が続けられていた悲願の「ウナギの完全養殖」(実験室で生まれ成長したウナギのオスとメスから精子と卵を採取し、卵をふ化させること)が実現した。
実用化されれば、シラスウナギの漁獲量に左右されない、安定したウナギの供給が実現する。現在は、ふ化させたウナギを大量飼育する技術の発展が急がれている。
ここで大量養殖を図っているウナギはもちろんニホンウナギ。代替品は多数出てきているが、本物のニホンウナギへの需要は尽きないだろう。国産のニホンウナギ量産はそれに応えるものだ。
日本の食文化におけるウナギの歴史は古い。縄文時代の土器からもウナギの骨が発見されているし、奈良時代の万葉集にもウナギについて詠んだ一句があるらしい。そんな日本の文化に溶け込んだウナギが食せなくなるのは到底受け入れがたい。
日本が世界に誇る和食はユネスコ無形文化遺産に登録され、海外でも認められている。ウナギ料理も和食の重要な一角を占めているはずだ。決して日本人の胃袋のためだけではない。
3年後またワシントン条約締約国会議がある。今度こそニホンウナギの規制が提案されるかもしれない。時間はあまりない。今後の技術革新に期待したい。今度は、供給量がうなぎのぼりになることを願って。
牧野敬一郎(まきの けいいちろう)
ニッセイ基礎研究所
経済研究部
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