マーケットのエコノミストとしての重要な仕事は三つあり、一つ目はデータの相関関係の発見という「観察」であり、二つ目はその相関関係の因果関係の方向性の「判断」であることを解説した。

三つ目は、因果関係の「観察」から因果関係の方向性の「判断」を経て、政策や投資を決定する上での「基準作り」となる。

企業貯蓄率が財政収支に影響を与えているという「判断」

一例として、企業貯蓄率と財政収支の相関関係(この場合は逆相関)が、「観察」できることを考えてきた。

日本経済の大きな問題は、マイナスであるべき企業貯蓄率が、恒常的なプラスの異常な状態が継続し、企業のデレバレッジや弱いリスクテイク力、そしてリストラが、総需要を破壊する力となり、内需低迷とデフレの長期化の原因になっていることだ。

企業活動が弱くなり、企業貯蓄率が上昇し、過剰貯蓄が総需要を破壊していき景気が低迷すれば、税収が減少し、景気対策も必要となり、財政赤字は増加する。逆に、企業活動が強くなり、企業貯蓄率が低下し、総需要を破壊する力が弱くなれば、循環的に景気は回復し、税収が増加し、財政赤字は縮小する。

そして、消費税率引き上げ後の景気低迷を見ると、増税などの緊縮財政により、将来の金利上昇の懸念のなくなった企業は投資を拡大し、社会保障システムが持続的になったと考えた家計が、消費を増やすという「安心効果」が虚構であったことがわかった。

結果として、因果関係は企業貯蓄率から財政収支により強く向かっているという「判断」を下した。

ネットの資金需要の水準を見極める

これまで、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力である、企業貯蓄率と財政赤字の合計である、国内のネットの資金需要が消滅してしまい、それをマネタイズする量的金融緩和の効果も限定的になり、デフレ完全脱却の動きは止まってしまった。

言い換えれば、ネットの資金需要の水準が、企業の貯蓄率を前提として、どれだけ財政政策が景気刺激的なのかを示す、政策変数であると言える。

実際に、2000年代は企業貯蓄率が大きく変動していても、ネットの資金需要はゼロ%近くに張り付き、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度、すなわち成長を強く追及せず、安定だけを目指す財政政策であったと言える。

ネットの資金需要の動きを見ると、バブル期にはGDP対比-10%程度、平均では-5%程度、デフレ期は0%程度、そして+5%程度になると信用収縮をともなう、デフレスパイラルになると考えられる。