2016年3月期には、ゼンショー、松屋が業績改善
2015年末頃を境として、円安から円高へトレンドが変化したことを契機に、牛丼各社の業績に改善の兆しが見られた。
2016年3月期では、ゼンショーが純利益40億2600万円と前年の大幅な赤字からV字回復を成し遂げた。すき家では「New Value」をコンセプトとした牛丼の商品設計を見直し、具材をボリュームアップさせるとともに、並盛の価格を税込み291円から350円に値上げ。さらに牛丼とサイドメニューとのセットを充実させ業績アップにつなげた。
松屋フーズも、純利益が前年同期比150.7%増の16億1,900万円まで伸びた。円高の一服もあり、原価率が前年同期の34.3%から32.8%に改善。季節限定メニューなどによる販売促進も功を奏した。
この2社とは一線を画し、外食産業の市場に暗雲が立ち込めていた時も好調を維持していた吉野家の業績にはブレーキがかかった。2016年2月期の純利益は前年同期比11.0%減の8億3700万円まで落ち込んだ。夜の時間帯にちょい呑みを提供する「吉呑み」を導入したほか、ヘルシーメニューを充実させるものの、主要食材の評価損などが業績に響いた。
人件費、食材価格の高止りが重石に、デフレマインドが追い風か
2016年度に入っても円高の傾向は続き、一時100円を下回る水準まで為替レートが動いた。これに背中を押されたように、牛丼各社が勢いを取り戻している。
2017年3月期の第1四半期決算によると、ゼンショーは純利益が7億円と前年同期比の2億7200万円の赤字から黒字への転換に成功。09年以来のマーボーナス牛丼を再登場させるなど商品のバリエーションを強化し、業績アップにつなげた。ゼンショーを上回る勢いを見せたのが松屋フーズ。同期の純利益は4億8000万円と前年同期の5200万円から大幅に躍進した。
この2社とは対照的に吉野家は17年2月期の第一四半期決算では、純利益は前年同期比で48.5%減の1億3000万円となった。グループ全体では厳しい結果となったが、牛丼チェーンの吉野家単体のセグメントに限ると、利益が前年同期比で14.2%増の6億100万円。吉呑みが引き続き堅調なほか16年4月に復活した豚丼の販売も好調で、増益に貢献した。
各社とも数年前の苦境から脱出しつつあるものの、食材価格が高止まりするなか、円高による牛肉など輸入原材料のコストダウンの恩恵を最大限に享受できていない。
さらに追い打ちをかけるのが、人件費の高騰だ。牛丼チェーンでは、24時間営業の店舗もあり、深夜のシフトをカバーするアルバイトの給与や、これまで実施していた深夜帯に1人の従業員が業務をカバーするワンオペレーションを見直し、複数の従業員で切り盛りする体制へと移行したことから、人件費のコスト高が悩みの種だ。松屋のケースでは、2017年3月期の第1四半期では、人件費が売り上げに占める割合が35.3%と、前年同期の34.9%から増加している。
円高のメリットがなかなか活かせない牛丼業界にとって後押しとなりそうな材料はデフレマインドだろう。日銀が掲げた2%のインフレ目標の達成が困難になりつつあり、日本経済もアベノミクス導入時のような勢いは見られない。消費者マインドも冷え込み、デフレへの逆流懸念までくすぶる。
このような状況でこそ、割安に食事ができる牛丼チェーンの需要は、節約志向とマッチして必然と高まる。このニーズをくみ取るには、価格の見直しや、手軽なメニューの導入などの戦略も必要になるが、消費者動向をしっかりとつかめば、牛丼業界には追い風となる雰囲気が漂い始めている。(ZUU online 編集部)