(3)ROE向上に舵を取り始めた各社

非資源分野への投資を積極化しています。電力や水道といった社会インフラ整備を始め、通信関連、原材料や部品などの流通・加工、物流ネットワークの構築にまで及び、さらには自動車やマンションの企画販売、食品加工、コンビニエンスストア、金融など消費者との接点まで持つようになっています。つまり、産業におけるプロデューサーと言ってもよいでしょう。大手商社各社が、これだけ非資源分野への投資にこだわる理由の1つは、資源分野における商品市況に業績が左右されるのを避けようとしているからです。「大きく儲かる時もあれば、大きく損をする時もある」という事業形態から「安定して収益をあげられる」事業形態へ転換を図ろうとしているのです。

現段階では着実に利益を上げ、安定収益確保に舵を切っている大手商社には新しい問題が生じてもいます。それが株主資本の有効活用です。利益が増えれば、株主資本も増える、というのは喜ばしいことですが、投資家の中には投下資本が効率的に利用されているかどうかを気にする人々もいます。「ゆくゆくはROEが下がり、資本効率が悪くなってしまうのではないか?」大手商社各社はこうも見られているわけです。今、こういった投資家に対して、資本を有効活用しているということをアピールするために、ROEを上げるために株主配分を厚くしようとする商社の動きが目立ってきました。

商社株が安定配当銘柄になるかも?

ROEは株主資本利益率のことです。当期純利益を株主資本で割った割合を表します。数値が大きければ「資本が有効活用されている」ということを意味すると言われています。毎年の利益が同じであれば、分母である株主資本は大きくなるので、ROEは年々下がっていってしまいます。この状況を避けるため(ROEを維持または向上させるため)に取りうる手段が株主への返還、つまり株主配当や自社株買いになります。三井物産では配当性向を30%にすることを打ち出しましたし(それまでは22%~25%)、2月には500億円を上限とした自社株買いも発表しました。三菱地所も5月に600億円を上限とする自社株買いと増配を発表しました。株主資本が厚くなりすぎないよう圧縮しているわけです。

一生懸命にROEの維持を図ろうとしている大手商社ですが、IFRSの導入で非上場株式の時価評価もしなければいけません。含み益がでるようであれば、さらに株主資本は厚くなってしまいます。そのために更なる増配や安定した配当も期待できます。三菱商事は「1株あたり50円の安定配当に加え連結純利益3,500億円を超える部分について少なくとも30%の株主還元を行う」ことを表明しています。過去のイメージ、ROEの維持・向上、IFRSの導入など商社の苦悩はまだまだ続きそうです。

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