1996年8月の1号店出店から今年で日本進出20周年を迎えたスターバックス。銀座からスタートし、今では47都道府県で1198店舗(2016年6月末時点)。これは1197店舗の吉野家や1109店舗のドトールコーヒーショップとほぼ同じ。広く親しまれている証拠だろう。私も原稿を書く時や仕事帰りのリラックスタイムによく利用している。
居心地の良い空間や、美味しく、また自分好みにカスタマイズできるドリンクなど、スタバ(親しみを込めてあえてそう呼ばせていただく)が支持される理由はいくつも挙げられるが、私が最も魅力を感じるのは店員さんである。フレンドリーで温かい接客に心が和む方も多いだろう。
そして、そんな魅力的な「スタバの接客」を支えているのは、優れたノンバーバルコミュニケーションにあると私は思う。
ノンバーバルの効果
ノンバーバルコミュニケーションとは、表情や声の調子、体の動きなど“言葉ではない”コミュニケーションのことである。
例えばあなたが、職場の同僚に「おはよう」と挨拶をされたとする。自分の方を見ず、作業しながらボソッと言われるのと、目を見て、笑顔で明るい声で言われるのではどちらが気分がいいだろうか?間違いなく後者だろう。
これが、ノンバーバルコミュニケーションの差だ。同じ言葉でも、そこに伴う非言語表現によって、相手へ伝わるメッセージは異なってくるのだが、この点においてスタバの店員は非常に優秀である。きちんと目を見るのはもちろん、柔らかい笑顔と心地よい声の調子、聞き取りやすい話の速度で接してくれる。何より、個人差はあれど、どこの店舗のどの店員もノンバーバルの質が高いことには驚くしかない。
慌ただしさもノンバーバルで伝わるから……
とはいえ、ノンバーバルの重要性については、スタバに限らず接客業なら当たり前のように指導されているものである。私も以前、チェーン店のカフェで働いていたことがあるが、こうした指導はよく受けたものだ。しかし、スタバのようなレベルの接客は、店としても自分個人としても出来ず終いだった。
私は、スタバの接客の魅力には研修以外に3つの土台があると思う。1つは、無理のない仕事量である。どれだけ好印象なノンバーバルが大切だと分かっていても、一人でこなさなければならない仕事が多くなれば、人は作業に追われてしまうものだ。また、仲間が慌ただしく動いていれば、自分も釣られるもの。
だが一生懸命仕事をこなすほど、その慌ただしさが非言語の表現となり、客に伝わってしまう。これでは客はくつろげない。この点、よく観察していると、スタバの店員には常時多くの店員が働いており、落ち着いて自分の仕事に取り組んでいる様子が見受けられる。まさに量より質。サービスの質を上げることで、顧客満足度をあげようという考えなのだろう。
店員同士でも
2つ目は店員同士の接し方である。有名な「マズローの欲求5段階説」でも言われているが、人は安心できる場を得て、仲間を持つことができて初めて、「仕事で認められたい」「社会に貢献したい」と言った欲求が生まれるのだ。職場の人間関係がギスギスしていては、客のために意欲高く働き続けることはできない。CSよりもESと言われる理由はここにある。
カウンターを眺めていると、この点も上手に行っていることが見て取れる。店員同士でも、客へ接するような笑顔でコミュニケーションをしているのだ。これは接客業に限らずどんな仕事でも言えるが、気の合う合わないに左右されず、共に働く仲間として相手へ尊重を示すことは、相手のモチベーション向上に効果的。是非、取り入れてほしいポイントだ。
安心して仕事に取り組むために
3つ目は評価されるシステムだ。どれだけ意欲高く働いても評価されなければ続かない。ディズニーのホスピタリティが高いのも、結局はそうすることが会社や同僚から評価されるからである。給与や昇進だけでなく、仲間からの賞賛といった無形のものも含め、頑張れば評価されるという安心感があるからこそ、客へ意識を集中しノンバーバルの表現も豊かになるのだ。
身近な安らぎを提供してくれるスターバックスも、視点を変えれば、サービスの向上や部下の活性化のヒントが見えてくるので、是非一度、コーヒー片手に店員さんを観察してみて欲しい。いつもと違う感動が得られるはずだ。
藤田大介DF心理相談所 代表心理カウンセラー
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