エニタイムズ, 角田千佳, 起業
(写真=筆者撮影)

ご近所お手伝いコミュニティ「ANYTIMES(エニタイムズ)」の創業者でCEOの角田千佳(つのだ・ちか)さん。

「パラオの無人島で考案したビジネスモデル」を元に、28歳の誕生日に起業。経営について語る前編に続き、後編では「振り返らない」生き方と自己投資について伺います。

アボリジニの研究から金融業界へ

――角田さんは新卒で証券会社に就職しています。大学の専門は経済ではないですよね?

法学部の政治学科で、大学の研究では、『アボリジニ女性の貨幣経済への適応可能性』をテーマにしました。ゼミの先生が、オーストラリア学会の会長さんだったんです。社会学、地域研究に興味がありましたので、先住民族の研究もしたくて選んだんですよ。

金融の知識って、まったくなかったんです。わからない、でも将来的には絶対に必要になるだろうと思っていたので、証券会社に就職しました。

――「将来的には絶対に必要になる」は、起業が頭にあったからですよね?

はい。株や債券の基礎的な知識が身につきましたし、何より「途上国で事業をやる前に、身近な日本でやろう」と思ったきっかけも、証券会社時代の人との出会いによる経験が、すごく大きかったんです。

――金融って、むしろ苦手だった?

それ以前に、想像がつかなかったというか。メーカーなどですと、販売している製品があれば何となくイメージがつきますよね。売るんだろうな、そのためにどうするか考えるんだろうなという感じで。

でも株式、債券の売買っていわれても、文字で見ても意味がわかりません。飛び込んでみて、やっと理解できたんですね。

配属されたのは、本店の資産管理部。そこでは個人や法人向けに、株や債券の売買や投資信託の提案をする営業をしていました。配属先の同期とは今でも仲良がよく、心から信頼のできる、かけがえのない友人たちです。

――仕事内容は、顧客に電話して「この銘柄はおすすめです」とお話をしたりすること?

というより「買ってください」ですね。買ってもらうことでコミッション(手数料)が入ります。部署ごとに「今日はこれを売りましょう」というノルマがあるので、こなしていくのが仕事です。

(写真=PIXTA)
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IPO株として、クックパッドやグリーが盛り上がっていた

――証券会社で、学んだことはどんなことですか?

興味深かったのは、IPO(新規公開)株に申し込みが殺到していたこと。当時はクックパッド、グリーなど、今思えば「ああ、もっと興味を持って聞いておけばよかった」という企業が続々と上場している時期でした。

起業したときよりさらにITのことがわからない状態でしたが、「ITって面白んだ」「IPOをする会社にはどのような共通点があるのだろう」といったことに興味を持ってチェックしていました。

片や、電力会社のような、手堅い銘柄も見ていました。幅広く、いろいろな会社を見ることができたというのも、証券会社ならではの機会でしたね。

――個別株の分析もしていたんですね。

仕事としてはまったく求められてはいないことだったので、ただの趣味です(笑)。分析をして「今日はこの銘柄がいいですよ」とお客様に勧めるほうが好きでしたね。

自分の場合は意図的にですが、投資暦の長い顧客を担当しました。お客様に教えていただくことも多かったですね。

金融の次は、苦手だったIT業界に転職

――証券会社の次には、IT系企業に転職しています。

証券会社でクックパッドやグリーがIPOを果たし、しかも株価が急上昇しているのをずっと見ていました。今でも、証券コードを覚えているくらい。

これからITはまだまだ伸びていくだろう、上場企業って増えていくのだろうな、と実感していたところに、大学時代にアルバイトでお世話になったIT系企業から声をかけていただいたんです。

「これはチャンスかもしれない」と思って、自分が最も苦手だと思っていたITの分野に飛び込んでみました。できたばかりのPRの子会社に出向する形で、総合代理店向けのPRのプランニングを担当しました。証券会社、IT系企業とも2年半ずつ勤務して、起業することになります。

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苦手な環境からは得るものが多い。だから「飛び込む」

――「飛び込む」が角田さんのキーワードですね。苦手に飛び込むマインドは、いつからあったのでしょう?

うーん、いつからでしょう? 最初がいつか、は思い出せないくらい昔だと思いますけど、一番はもしかしたら、社会人になるときかもしれない。

――まったくわからない金融業界に就職して。

環境に身を置くことで、苦手だったものが興味深いものに変わっていきました。それが経験になっているのかもしれないですね。

もともと、わりと知識欲のようなものはあるほうだと思うのですが、得意なことは自然と覚え、吸収していくものじゃないですか。でも苦手なものって、わざわざ環境に身を置かないと吸収できないという自覚があるので。

――だから自ら、飛び込むわけですね。IT系への転職にしても。

自分が苦手な環境のほうが、得るものが多かったりしますし、それを探すのが楽しかったりもします。どういう環境であったとしても、結局、自分次第だと思うので、逆境も最大限に楽しむことはしています。

失敗は貴重な「経験」であり、未来のための「経費」

――次の行動を起こすには決断が要ります。角田さんは、思い切りがいいですよね。「ここだ」というところがあるんでしょうか?

計画的にやったとしても、外的環境って変えられるものではないし、どうなるかわからない。ということは結局、自分が「決める」タイミングなんです。

そうなると、自分が「やりたい」と思ったピークのときにはじめるのがベストということになります。高いモチベーションのときに、いいアイデアがあるときにはじめるのがいいと思います。

――やると決めたあとは、どう持っていくのでしょう?

いくつかあるどの道を選択したとしても、結局、やりかた次第で成功も失敗もすると思います。その後でどう成功させていくか、そのためどうやって実行していくかに焦点を絞っていきます。

失敗って、言葉が違うだけで「経験」ということなので、その経験があるからこそ、もう同じことを繰り返さないので。未来になにかやるための経費と考えればいい。

「ああしておけばよかった」とは振り返りません。そこは考えたって戻れるわけではありませんから、前に行くことだけを考えます。

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会社の成長につながる投資なら、いくらでもしたい

――人生で「これが一番の投資だった」というものはなんでしょうか?

全部ですね。順位を付けられるものではなくて、自分の中で一つひとつの経験のよって一歩ずつ前に進んでいるので、だからむしろ大きさとしては全部同じなのではないかなと。

――お金に対する考え方はいかがですか? ポリシーのようなものは?

起業した頃は、自己資金の残高が心配でコストを切り詰め、なるべくお金を使わないようにしていました。ただ、同時に投資もできなくなっていたんですね。

でもある程度投資をしないと、返ってこないこともわかってきました。小さく投資して大きくリターンという希望はありますが、そうそうそんなチャンスはありません。ある程度は投資をしていないといけない、ということは心しています。

――プライベートでもでしょうか?

私、物欲がないんです(笑)。友人や仕事相手との食事など、交流への出費は惜しみません。旅にも出ますが、ハードな部分、洋服やものにはお金はかけないですね。目に見えない価値には投資をしようかなと思っています。

――昔から? それとも起業してからですか?

昔からですね。起業してからは余計にそうなりました。美容院も、半年に一度くらいとか(笑)。前からですが、美容院に行く頻度も低くなっていますね。忙しくなったというのもありますが、必要性もあまり感じていなくて。

――そうなんですか! 意外です。

ああ、この言い方がわかりやすいでしょうか。「会社の成長につながらないものには、一切お金をかけない。でも会社の成長につながるものになら、いくらでもかけたい」。今は、自分イコール会社、になっているので……。

旅も、目的はリフレッシュですが、今すぐ事業にはつながらなくても、その場所のスタートアップの企業を回ってみて話を聞くとか。日本国内でも地域によって課題や習慣も違いますし、海外だともっと違いますから、アイデア、インスピレーションが生まれることもあります。

逆に、ANYTIMESの話をすることで、返ってくる反応が勉強になることもあります。行った先々で仕事につながることを、無意識のうちにしている気がしますね。

(写真=PIXTA)
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不安がるよりも、その時々の人生を100%充実させたい

――自分の人生と会社の成長、どんなふうにイメージしていますか?

人生設計はむしろ立てません。会社イコール自分なので、会社の行く方向で自分の人生も変わっていきますので、そのときどきで自分の人生を考えればいいかな、と思っています。どういう人と出会ってこれから進んでいくかもわからないですし。

今は自分よりも、会社の成長のほうに興味があるんです。その成長に合わせて、私個人の人生はその日その日で選択していけばいいと思います。

――「将来がなんとなく不安」「老後が不安」という30代もいる中で、角田さんは迷いがないですね。

考えたところで、例えば自然災害など外的要因で、自分ではまったくコントロールできないことも起きる。お金があれば安心かといえば、日本円がずっと安泰だとも言い切れません。心配しだしたらきりがないですよね。

不安がるよりも、その時々、自分の人生を100%充実させて生きたほうがいいんじゃないかと思います。

――それが将来の何かしらにつながっていくということですね。

はい。「どうなるかわからない」は常に思っています。そして明日に死んでしまうかもしれない、もしかしたら200歳まで生きるかもしれない。会社の事業計画よりも難しいですよね、自分の事業計画って(笑)

「本当はどうしたいのか、何が幸せなのか」に目を向けて

――同年代に向けて、伝えたいことは?

社会の決まりごと、社会の枠など、「こうあるべきだ」と思っていて自分の首を絞めてしまう人って多いと感じています。でもそれって固定観念でしかないので、環境を変えれば全然違う世界があったりしますよね。

そうした枠をなるべく排除して、自分が本当はどうしたいのか、何が幸せなのかといったところに目を向けると、楽になったり、楽しく過ごせたりするのではと思っていて、自分自身もそうやって過ごせたらと思っています。

――国内に住む外国人用のサービスを開始して、近い将来、海外でもサービスを展開するというANYTIMES。その先にはライフワークである「途上国支援」も控えています。角田さんの「男前な」生き方を応援しています!

(写真=筆者撮影)
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【取材協力】 ご近所お手伝いコミュニティ「ANYTIMES」

阿部祐子(あべゆうこ)
出版社勤務(雑誌編集者)を経てフリーに。2009年CFP資格取得。社会、金融、ビジネス系記事、やさしい言葉を使ったファイナンス系の読み物などを手掛けています。

(提供: DAILY ANDS

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