九州フィナンシャルグループ <7180> の鹿児島銀行が鹿児島県で、秋田銀行 <8343> と三井住友フィナンシャルグループ <8316> の三井住友銀行が秋田県で農地を保有して農業を営む農業法人を設立した。
ともに4月の改正農地法施行で農地を所有できる法人の要件が緩和され、銀行の農業法人出資が可能になったのを受けた措置で、農業経営参画により新たなビジネスチャンスを作るのが狙い。農業向け融資はこれまでJAや政府系金融機関の寡占市場になってきただけに、農業法人に参入する銀行が今後増えそうだ。
鹿銀の出資比率は3%、現役支店長が社長に
鹿児島銀行は9月末、鹿児島県の鹿児島中央青果、鹿児島共同倉庫、園田陸運、福岡県の北九州青果、九州フィナンシャルグループのKFGアグリファンドとともに、新農業法人を設立した。
鹿児島銀行の出資比率は3%程度だが、新法人の社長には、鹿児島銀行の現役支店長を起用、他に行員2人が出向して経営への関与を鮮明にしている。
新法人は鹿児島県日置市の農地約0.3ヘクタールを借り受け、野菜の生産に入った。来春にはタマネギ、来夏にはオクラを出荷する予定。当面は露地栽培が中心になるが、将来は植物工場の建設も視野に入れている。
さらに日置市内4ヘクタールの耕作放棄地には、オリーブを植樹して農地の再生を図るとともに、将来の出荷を目指しており、地元農家の指導を受けながら生産を進める。地域雇用の受け皿になることも想定し、農業大学校や農業高校の卒業生を積極的に採用する方針だ。
鹿児島県は全国の都道府県でトップスリーに入る農業地域だが、人口減少と高齢化社会の進行に伴い、後継者不足や耕作放棄地の増加が深刻化している。鹿児島銀行はこれまで、農業ファンドなどへの出資を通じ、生産者支援を続けてきた。農業の先行きが地域経済の未来を左右すると考えてきたからで、農業法人参入もこの延長線上に位置づけられている。
九州の金融界は、鹿児島銀行と熊本県の肥後銀行が経営統合した九州フィナンシャルグループと、福岡銀行などが設立したふくおかフィナンシャルグループ <8345> 、西日本シティ銀行を中心とする西日本フィナンシャルホールディングス <7189> が、しのぎを削り合っている。
地元経済界では、九州フィナンシャルグループが農業法人参入で宮崎県など農業地域への影響力を広げ、地銀間の競争を勝ち抜こうとしているとの見方も出ている。
鹿児島銀行アグリクラスター推進室は「耕作放棄などの問題を解消するため、農業を若者にとって魅力ある存在にしたい。それが農業県・鹿児島の活性化に結びつくはずだ」と意気込みを語った。
秋田銀行と三井住友銀行は秋田県でコメ作りに挑戦
秋田銀行と三井住友銀行は、秋田県大潟村の大潟村あきたこまち生産者協会、NECキャピタルソリューション <8793> などと今夏に新農業法人を設立した。こまち協会が過半を出資したが、秋田銀行、三井住友銀行とも5%の株式を所有し、経営に参画している。
新農業法人は今秋から秋田県内の人手が足りない農家から刈り取りや精米を請け負う作業を始めた。来年からは離農者から農地を買い取るほか、水田を借り受けて本格的なコメの生産に乗り出す。銀行自身が生産者の一角に入り、農地の集約や大規模化を促す方針だ。
生産効率化のための農業機械導入など設備投資や、土地流動化による不動産売買が活発になれば、新たな融資機会が生まれるだけでなく、離農者向けの事業継承支援など新しいビジネスも考えられる。
三井住友銀行は生産者の高齢化や輸入農産物との競争激化で今後、農地の集約がいっそう求められるとして、金融機関の経営ノウハウを生かした共同事業体がその受け皿になるとみている。
秋田銀行経営企画部は「効率的で収益性の高い農業モデルを構築し、地域振興に寄与していきたい」、三井住友銀行広報部は「農業の成長産業化とそれに伴う地方創生の実現を図る。秋田での事業が軌道に乗れば、他県にも広げたい」としている。
農業は成長分野、銀行が融資先確保へ熱い視線
金融機関の農業参画としては、オリックス <8591> が2004年、カゴメ <2811> と共同出資会社を設立し、トマト生産に入ったほか、野村ホールディングス <8604> が2010年、農業経営のコンサルティング会社をつくり、出資先で翌年からトマト栽培を開始した例がある。
今回、メガバンクや地方銀行が農業参入を決めた背景には、企業の資金需要が伸び悩む中、コメの減反廃止を決めるなど政府が規制緩和に乗り出し、農業の成長力を高めようとしていることがある。銀行側はこれまで、小口の融資が多い農業に及び腰だったが、農業を成長分野ととらえ始めたわけだ。
これまで農業向け融資はJAと政府系金融機関がほぼ独占していた。農林中金総合研究所のデータでは、農業関係の融資残高は2015年3月末でざっと5兆円だが、民間金融機関が占める割合は約15%にとどまっている。この寡占状態を打破し、新たな融資先を確保する狙いが銀行側にある。
人口減少と高齢化社会の進行に苦しむ地方にとって、農業の振興なしに地域の活性化はおぼつかない。その一方で日本の農作物は高品質とされ、アジア諸国の関心が集まりつつある。銀行の相次ぐ農業法人参入は、地方と農業の苦境を打開する可能性も秘めている。
高田泰 政治ジャーナリスト
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。