2016年現在、喫煙者にとっては非常に過ごし難い状況だ。年々増税されるタバコ税による値上げと分煙・禁煙ブームによる喫煙所の撤去が理由だ。飲食店の中には「完全禁煙」という場所も珍しくない。
そういった逆風にも関わらず、日本たばこ産業株式会社 <2914> (以下JT)の業績は好調だ。今回はJTの優れた収益モデルと、決算書データからみるJTの経営戦略を分析していきたい。
喫煙者人口とJTの利益推移
まず市場規模の分析からはじめたい。厚生労働省にて公開されている成人喫煙率(厚生労働省国民健康栄養調査)によると習慣的喫煙者の割合は19.3%となり、年々減少傾向にある。
また公開されている統計データより算出された「紙巻タバコ販売本数」および「1人あたりの消費本数」を参照すると、1995年前後を境に双方ともに減少の一途を辿っており、上記の喫煙率割合とあわせてみて全体的に日本におけるタバコ市場が減少していることがみてとれる。
過去5年の決算書データを参照してみると、2012年の連結決算時における売上が2,033,825(万円)、2015年時が2,252,884(万円)と約10%上昇している。
また営業利益も2013年時459,180(万円)に対し2015年次が565,229(万円)、当期利益にいたってはさらに上昇率が高い320,883(万円)から485,691(万円)と約51%の上昇となっている。
カギは「海外事業」 3分の2以上が海外事業
縮小している日本マーケットにも関わらず収益を挙げ続けるJTの秘密は「海外事業」だ。
JTは戦略的なM&Aに積極的であると市場では評価されており、収益率も高い。
JTの買収攻勢が始まったのは日本国内におけるタバコ人口が減少しだし、この流れが続くというのが見え始めた1999年から始まった。世界3位のタバコブランドメーカーであるRJRナビスコ社の「米国外たばこ事業部」部門の買収、2007年にはイギリスのギャラハー社を約2兆2億円で買収した。
また2016年度は3月にドミニカ共和国のたばこ関連企業「ラ・タバカレラ」を買収、7月にはエチオピアのたばこ専売会社「ナショナル・タバコ・エンタープライズ」の発行済株式の40%(時価約535億円)で取得保有している。
こういった「需要が続くであろうマーケットへのシフト」と「縮小していくマーケットに早々に見切り」を同時進行で行い、海外市場に着眼するその高い戦略性と機動性が今日のJTの利益を支えている一因である。
「任せる」経営戦略と買収先の目利き
また企業買収における「買収先の選別」と「買収後の経営戦略」にも一家言ある。その戦略の根幹を成しているのは「ミスターM&A」と呼ばれるJT副社長・新貝康司氏の考え方だ。
「相手を信頼し、任せている部分が多い」。同氏は日経の取材でそう語っている。まず買収先を決定するプロセスにおいて「企業風土」がJTと合致するか否かを調査する。買収後に双方に不利益をもたらさないようにだ。その後は本社から「現場を知る」人材を送り込み、あとは企業風土および国家風土などに合わせ、事業を最適化していく。
ただし信頼して任せているからと言って「放置」するわけではなく、キッチリと確認は行う。同社はジュネーブに海外事業の管理を行う子会社「JTインターナショナル(通称JTI)」を設置しており、これがJT本社と買収先企業の橋渡しを行う。海外事業において高額になりがちな役員報酬などは本社承認が必要としており、日本企業ではなあなあで済ませがちな「管理責任の所在」もキッチリと定義している。
「自社もしくは日本のやり方を押し付けるのではなく、適宜最適化していく」という方針が経営方針だけでなく事業展開や事業買収においても見て取れる。これが今日までのJTの順調な業績推移に寄与している。
国内事業だけに限らず海外にも積極的に食指を伸ばし、実績を挙げているJTの見通しは明るい。今後も継続して事業拡大を行っていただきたいものである。(土居亮規、バタフライファイナンシャルパートナーズ AFP)