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(写真=PIXTA)

中国では、ここに来て人民元下落の記事が再び増えている。その原因を分析しつつ、年末の相場や来年の見通しを語る、という形式が多い。エコノミストたちの発言から、来年の人民元相場を予想してみよう(11月3日現在、1ドル6.8人民元)。

2005年に固定相場制から変更

人民元は2005年に対ドル固定相場制から、管理フロート制、通貨バスケット制と呼ばれる体制に移行した。具体的には1ドル8.28人民元の固定レートから8.11元に上昇させ、以後限らた範囲内で変動させるようにした。それから人民元は常に上昇基調にあった。

それが今年4月~7月の間に4.0%下落、さらに8月~10月の間に2.8%下落している。まだ10月28日に付けた1ドル6.8元でピークアウトしたわけではない。明らかに下降基調は続いている。果たしてこれはいつまで続くのか。まず「人民元下落の三大原因」と題する記事から当たってみる。

人民元下落の三大原因

(1) 米国の利上げ圧力。米連邦準備制度理事会は、12月中に再利上げに踏み切る公算が大きい。ただし“米国大選(大統領選挙)”でのヒラリー勝利を前提としている。彼女の当選は世界の金融市場への影響を最小限にとどめる。米国経済政策政策の継続性は確保され、政治の不確定性は低下、ドル高政策を維持するだろう。そして人民元の下落圧力は継続する。

(2) ブリグジットの影響。英ポンドは大きく下落した。また欧州政治経済の不安定は、ユーロの価値に深遠な影響を与えている。投資者はユーロの保持に慎重になっている。このことは米ドルの価値を側面から補強している。

(3) 中国の不動産バブル。国際購買力平価から見ると、人民元は下落しすぎである。したがってやはり金融面、米国の利上げと中国不動産バブルの影響が大きい。バブル崩壊に備えた資産の多元化、海外資産の需要が進み、人民元下落圧力となっている。

今後の人民元相場、再来年8.1元の予想も

次は人民元相場の予測記事である。記事は、「これまでの10年間慣れ親しみ、市場に染み付いた人民元高の幻想を排除しよう。これはより自由な為替市場形成の一過程である。そして今後は市場参加者こそ市場の主体となる」と始まる。以降の記事は、人民元安の期間と幅を予測するものである。

外為ブローカーFXTMの中国市場分析師Z氏は、人民銀行(中央銀行)は今後の大幅下落を否定しているが、6.7元を突破した以上、市場の流れは次に7.0元を目指す展開となる。ただしその他通貨に対しては、人民元は上昇の余地ありと見ている。

ドイツ銀行10月のレポートでは、今後2年で人民元は17%下落と予測している。それに従えば2017年の年末には7.4人民元、2018年末には8.1元となる。またデンマーク銀行は、今後12カ月間、7.1人民元レベルを予想する。

現地報道では、みずほ証券アジア首席エコノミストは、「年内6.8元を維持するのは不可能、2017年は7.3元もありうる」としている。

秩序のある変動なら容認する?

現状は人民元下落により、資本流出、外貨準備減少、資産価格の高止まりなどを招いている。しかし一方で、企業の対外債務が一段落すること、機関投資家による外国投資、国内の債券市場とも拡大していること--などにより資本の流動性が増すプラスの効果もみられる。したがって秩序のある市場変動なら、人民銀行は政策的コントロールを見送る意向のようだ。

問題は中央政府のその他の部門である。何かというと中央国有企業に指示を出し、自分たちの尻ぬぐいや帳尻合わせをさせていた。その彼らが長期にわたる人民元下落の状況に何も口を挟まず、じっとしていられるかどうか。市場経済の熟成度を試されるケースであり、これこそ最大の見所となりそうである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)