2016年は今までは考えられなかったような政治の変化や経済イベントが世界各地で起こった。英国民が国民投票でEU脱会を決めたこと、米国民が暴言を吐きまくるトランプ氏を大統領候補として選んだことなどがその代表だ。この傾向は世界中に広まっており、「憤怒の政治」と言われている。英バークレイズ銀は、2016年10月のレポートで、「憤怒の政治が世界成長の鈍化を招く」と警告した。「憤怒の政治」とは何なのか、なぜ成長を鈍化させるのだろうか。

長期景気低迷による不満が「憤怒の政治」の背景

世界の市民は長期の不況などでたまった不満から、今までの主流派と違う「憤怒の政治」を選択する傾向を強めている。それは、BREXITやトランプ現象だけでない。

欧州地域では、移民排斥を訴える極右ポピュリスト(大衆迎合派)の支持が高まってきている。特に、オーストリアでは、移民、難民の規制を主張してきた極右派のホーファー氏が12月4日のオーストリア大統領選挙の世論調査で一歩リードしている。EU初の極右派政党からの大統領が誕生する勢いだ。

先日来日したフィリピンのドゥテルテ大統領が就任したのは今年6月。「フィリピンのトランプ」と言われる過激発言で有名なドゥテルテ氏は非常に高い支持率を得ている。「憤怒の政治」が支持されているのは、長期的な景気低迷とそれに伴う失業者増、中産階級の崩壊、所得格差などへの反発があるからだと言う。中産階級は、過去何十年も政治を支配してきたエスタブリッシュメントやエリートによる統治を信用できなくなってきたのだ。

フィナンシャルタイムズはトランプ氏の支持層に対し「中産層没落にともなう二極化深化がトランプ症候群をあおっている」と分析した。憤怒した低所得・低学歴・白人有権者などが、移民・マイノリティ・女性などをスケープゴートにするトランプ氏のアジテーションに熱狂している。

バークレイズのFXストラテジーのヘッドであるマービン・バース氏が10月に出した「憤怒の政治」の原因や経済への影響などに踏み込んだレポートの内容を見てみよう。