米国大統領,トランプ氏,投資家
(写真=Thinkstock/GettyImages)

人生には三つの坂がある。
上り坂、下り坂、そして三つ目は「まさか」の坂である。

Brexit で煮え湯を飲まされたにもかかわらず、多くの投資家はヒラリー・クリントンが米国の次期大統領に選出されると高をくくっていた。ところが、大統領選を制したのは「まさか」のドナルド・トランプだった。

米大統領選挙を通じ、我々銀行員は奇しくも人生の三つの坂を経験することとなった。

「相場に絶対はない」11月9日始業前ミーティングにて

「投資は自己責任」そうは言っても、自分が販売した金融商品でお客様が損失を被れば、心が痛む。だからこそ、我々銀行員はマーケットで何が起こっているのか、それをどのように解釈すべきなのかをお客様に正確に伝えねばならない。お客様の不安を少しでも軽くし、決断の材料を提供しなければならない。

11月9日の東京市場は米大統領選挙の開票のさなかに始まった。世界中の投資マネーがこの日の東京市場に集まることは容易に想像される。そのなかで、お客様のために最善を尽くすことが我々の使命だ。

「いよいよだな…」
「いよいよですね」

相場に絶対はない。我々は誰もがそれをよく知っている。つい数カ月前には英国のEU離脱で煮え湯を飲まされたのだ。今回こそは裏をかかれてはならない。

「マーケットはクリントン勝利を織り込んでいるが、相場に絶対はない。Brexit ではみんな良い経験をした。今日こそ冷静にマーケットに対応していこう」

よみがえる「Brexit の悪夢」

まるでエンターテイメントだった。この日、私はパソコンのディスプレイから目を離すことができなかった。米大統領選挙関連のニュースと為替、株の値動きが見やすいように画面を設定し直した。株価は前日比プラスで寄り付き、その後も堅調を保っていた。

9時40分、株価は突然下落し始めた。一時、前日比マイナス圏に沈んだものの直後に値を戻す。「ふ、危なかったな」誰からともなくそんな言葉が漏れる。

しかし、その後為替は円高に振れ、株も下落歩調となった。「フロリダ州で優勢」「オハイオ州で優勢」開票が進むにつれ、トランプの予想外の躍進が報じられる。その度に円高が進み、株は下落し続けた。

Brexit の悪夢がよみがえった。6月のあの日、想定外の離脱決定の報が伝わると、離脱回避を織り込んでいた為替市場は107円近辺から一気に99円まで8円近く跳ねた。

「これは、100円割れ覚悟した方が良いかも知れないですね」

警戒態勢のランチタイム

朝方105円台を付けていたドル円相場は急速に円高が進み、東京株式市場がランチタイムを迎える頃には102円台へと入っていた。

「この時間帯が一番狙われやすいぞ。一気に相場動く可能性あるから気をつけろ!」

案の定、円高の進行とともに日経先物はドンドン値を下げている。同時にお客様や営業店からの電話が絶え間なく鳴り響く。

「これからどこまで円高が進むのか?」
「どこまで株が下がるのか?」
「今日は買い場なのか?」

正直なところ、そんなことは我々に分かるはずもない。我々にできることは、せいぜいマーケットでいま起こっている現実を冷静に伝えることだけだ。