相続税の基礎控除額が2015年1月に見直された。今回は、相続税の基礎控除額とは何かを解説し、その計算方法を紹介することで、基礎控除の制度とどううまく付き合っていけばいいのかを紹介する。その上で、気を付けるべきポイント、基礎控除と非課税の違いなど相続税の基礎控除に関して多くの人がつまづきやすい点をわかりやすく解説する。

目次

  1. 相続税の基礎控除とは
  2. 基礎控除の計算方法
  3. 基礎控除額をシミュレーションしてみよう
    1. ケース1:財産を相続するのが被相続人の妻1人、子どもが3人、内縁の妻一人の場合
    2. ケース2:財産を相続するのが被相続人の子ども2人と両親の場合
    3. ケース3:財産を相続するのが被相続人の子1人と孫1人(孫の親である子は既に死亡)の場合
  4. 銀行預金にある落とし穴
  5. 非課税と基礎控除との違いとは

相続税の基礎控除とは

相続税の基礎控除とは、相続税の課税最低限度額のことだ。課税対象となる相続財産の総額がこの基礎控除額以下である場合には、相続税が課税されることはない。また、相続税が発生する場合においても、課税対象となる相続財産の総額がこの基礎控除額を超えた部分に対し、税金が課されることになる。

この基礎控除額、以前は「5000万円+1000万円×法定相続人の数」で計算されていたのだが、相続税法の改正により、2015年1月1日から「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されることになった。つまり、基礎控除額が以前の6割程度になったのである。

なお、法定相続人とは、民法で定められた財産を相続する権利のある人のことを言う。被相続人の配偶者(夫や妻)は常に法定相続人になるが、直系親族(子や孫、父母や祖父母)、兄弟については、法定相続人になれる順位が決まっている。

同時に、法定相続人のうちに相続放棄をする者がいても、基礎控除額の計算は、この放棄を無視して行う。原則として、親族以外の者(姻族を含む)は、遺贈などで財産を取得したとしても法定相続人にカウントされない。

さらに、この法定相続人に養子がいる場合には、実子がいるかいないかによって、一定の人数制限がかけられることになる。

基礎控除の計算方法

では、基礎控除額の計算方法はどのようになっているのだろうか。
先ほどお伝えしたように、現在、基礎控除額は「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されている。
例えば、法定相続人が妻だけの場合、基礎控除額は次のようになる。

3000万円+600万円×法定相続人の数1人(妻のみ)=3600万円
また、もし相続人が妻と子供1人の場合は次のようになる。

3000万円+600万円×法定相続人の数2人(妻と子供1人)=4200円
子ども、あるいは亡くなった子供の代わりに法定相続人となる孫が増えれば増えるほど、基礎控除額は600万円ずつ増加していくことになる。

基礎控除額をシミュレーションしてみよう

実際に、いくつかのケースに分けてシミュレーションをしてみよう。

ケース1:財産を相続するのが被相続人の妻1人、子どもが3人、内縁の妻一人の場合

基礎控除額=3000万円+600万円×4人(妻と3人の子ども)=5400万円
※内縁の妻は民法上の妻と認められないため、法定相続人にはならない。また、認知されていない非嫡出子も法定相続人にはならない。

ケース2:財産を相続するのが被相続人の子ども2人と両親の場合

基礎控除額=3000万円+600万円×2人(2人の子ども)=4200万円
※民法上、血族の法定相続人には順位がある。直系卑属(子や孫)→直系尊属(両親や祖父母)→兄弟姉妹、の順に優先される。

ケース3:財産を相続するのが被相続人の子1人と孫1人(孫の親である子は既に死亡)の場合

基礎控除額=3000万円+600万円×2人(子1人と孫1人)=4200万円
※本来、法定相続人となるべき子が死亡している場合、その子つまり孫が生きているならば、その孫が子の代わりとして法定相続人として認められることになる。これを「代襲相続」という。

銀行預金にある落とし穴

「相続財産は銀行預金だけだからカンタン。土地や建物みたいに登記といった面倒な手続きがないから、何もしなくても大丈夫」「相続する現金や預金の額からみて申告不要だから、何もしなくても平気」と思ってはいないだろうか。

実は、銀行預金であっても、またタンス預金であっても、申告さえすればよいわけではない。銀行預金や現金だけの場合であっても、遺産分割協議書を作成しなくてはならない。

遺産分割協議書とは、相続人同士の間で遺産分割が確定した場合、後々のトラブルを防ぐために作成する合意書だ。土地や建物などといった登記が必要な財産の名義変更だけでなく、相続税の申告の際にも必要となる。内容や形式に特に決まりはないが、協議書への押印は必ず印鑑証明を受けた、いわゆる「実印」でなくてはならない。

仮に、妻一人、子ども一人の世帯で相続財産が銀行預金2000万円のみ、そしてそのすべてを妻一人が相続したとしよう。基礎控除額は3000万円+600万円×2人=4200万円なので、申告は不要だ。

この後、そのうちの1000万円を、もう一人の法定相続人である子どもに渡した場合はどうなるだろうか。もし、遺産分割協議書がきちんと作成されていて、これに「2000万円を二人で半分ずつ相続する」としたならば、子供は相続で預金を取得したとみなされて課税はされない。

しかし、協議書がなく、妻の独断あるいは口約束でこの行為が行われた場合には、この1000万円は妻から子供への贈与とみなされ、贈与税が課税されてしまうことになる。

相続がどのようなケースであったとしても、相続人同士のトラブルだけでなく、無用な課税を避けるためにも、遺産分割協議書は作成するべきである。

非課税と基礎控除との違いとは

非課税財産と基礎控除の違いとはなんだろうか。基礎控除は相続税の課税最低限、つまり課税対象となる相続財産の総額が課税されるかどうかの基準であり、税金計算のベースとなるものである。

これに対し、非課税財産とは、国民感情や公益性、社会政策などによる配慮から、そもそも相続税の課税対象とされていないものをいう。

非課税となる相続財産は主に墓地や墓石、仏壇や仏具など日常礼拝をしているものや、皇室経済法の規定により、皇嗣が承継する物、一定の要件に該当する公益事業者が取得した公益事業用財産、心身障害者扶養共済制度に基づく給付金の受給権、相続人の取得した生命保険金等で法定相続人1人当たり500万円で計算した金額、相続人の取得した死亡退職金等で法定相続人1人当たり500万円で計算した金額、相続財産を国や公益社団法人等に寄附した場合の寄附財産、といったものがある。

いかがだっただろうか。2015年の改正相続税法の施行により、相続税についてあれこれ取りざたされているものの、細かな内容や注意点にまでは思いが及ばなかったかもしれない。また、「ウチは少額だから問題ない」と、関心すら寄せなかった人もいるだろう。

しかし、少額であっても、相続は相続だ。しっかりした知識がないばかりに、無用な納税をしてしまったり、あるいは遺産分割協議書などの書類を備えていなかったばかりにムダに税金を課されたりすることにもなりかねない。

「ウチにも関係あるかも」と思いながら、今から自宅の資産をキチンとチェックし、相続税が発生するかどうか、そして納税不要だとしてもトラブルを避けるためには何をすべきかを今から考えておくことが望ましい。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年に税理士登録。外国人の在日起業の支援が中心。現在、会計や税金、数字に関する話題についてのWeb上の記事執筆を中心に活動している。心理については、リトリーブサイコセラピーにて大鶴和江氏に師事。税金や金銭に絡む心理を研究している。共著「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。ブログ 「経済DV・母娘問題からの解放_セラピスト税理士のおカネのカラクリ」

【あわせて読みたい 「相続税」記事】
「相続税ゼロ ≠ 申告しなくて良い」 相続税の怖い点 | ZUU online
土地の贈与税はいくら?控除制度など | ZUU online
相続税の配偶者控除とは?夫婦なら確認したいこと | ZUU online
相続税の申告期限はいつまで?事前に覚えておきたいこと | ZUU online
今すぐできる有効な「相続税対策」とは? | ZUU online