米国のトランプ次期大統領が、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)について「就任初日に離脱を表明する」と述べたという。これは選挙公約でもあり、この決意は11月21日の自身のWebサイトでもあらためて表明、「私の政策課題はアメリカ第一主義という原則に基づいている」と述べているが、果たして日本にはどういう影響があるのだろうか。
悩める深刻な所得格差の拡大
TPPは日米ほか、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、ペルー、チリ、シンガポール、マレーシア、ベトナム、ブルネイの12カ国で合意している。世界の国内総生産(GDP)の4割を占める巨大経済圏だ。
トランプ氏が反対しているのは、国内の雇用拡大を重視する考えだからだ。貿易政策で「アメリカに取って災難となるTPP」から離脱し、国内の雇用を取り戻し産業を復活させるのが狙いなのである。
トランプ氏の保護主義的とまで言える貿易政策は、主張をそのまま実行したなら相手国からの報復は避けられない。結果的に貿易摩擦を引き起こしかねないし、世界経済の先行きを不透明にしてしまう恐れもある。
TPPからの離脱のみならず、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉、あるいは中国製品への関税引き上げと言った保護主義的な貿易政策が支持されているが、その理由は、米国民の間で、生活水準の向上が感じられないという問題があるからだ。
国民の所得格差の拡大は深刻だ。1970年代、米国は上位1%の人が占める所得の割合は全体の7%台と言われた。しかし現在は20%近くに達している。この数字は先進国の中でも米国が際立っている。
富の分配がされておらず、中所得者層の所得水準が上がっていない。雇用条件は改善せず、条件の悪い仕事が増え、国民は生活水準が向上していると感じられない。
自由貿易に対する怒りを支持に変える
その鬱憤の矛先が自由貿易に向いている。トランプ氏は経済成長から置き去りにされた人たちの不満を一手に引き受け、自由貿易に対する怒りを味方にし熱烈な支持を取りつけたのである。
トランプ氏の勝利の要因となったのは、ペンシルベニア州やオハイオ州だとされるが、ここはかつて鉄鋼業や重工業などで栄えた「ラストベルト」と呼ばれる接戦州。ここを押さえたことがあの逆転勝利の決め手となったのである。
保護主義政策を取って国内の産業を活発にしなければ、支持してくれた国民を裏切る事になってしまうわけだ。
政府試算では約14兆円の経済効果
政府が昨年12月に好評した「農林水産物への生産額への影響について」によると、TPPによって農林水産業では、生産額が年間1300億円から2100億円程度減少する見込みという。
しかし貿易や投資が拡大することで、GDP約14兆円の効果が期待されるという試算もある。関税の削減や投資ルールの明確化で労働者の実質賃金は向上し、雇用も約80万人分生まれるという。
こうした事から、TPPの参加国からは「米国なしでも進めるべき」という意見も出ている。米国がTPPから離脱するなら「中国やロシア、他の環太平洋の国々を含めた協定にするのが望ましい」という声もある。
しかし日本にしてみれば、大きな貿易相手国である米国が抜けてしまっては、そもそもTPP参加の意味があるのか疑問符がつけられてもおかしくない。
もしTPPではなく、日本が米国との2国間協定にした場合、米国から厳しい要求を相対で突き付けられることは想像される。たとえトランプ氏が離脱を撤回したとしても、米国内向きの保護主義が高まる世論に対し、日本は新たな譲歩を迫られる可能性もある。(ZUU online 編集部)