トランプ氏,レーガン
(写真=PIXTA)

大型減税、大規模なインフラ投資など、次期アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏が掲げる経済政策は、第40代大統領 ロナルド・レーガン氏の「レーガノミクス」と共通点が多いとの指摘がある。どのような点で共通点が多いと言われているのだろうか。

経済を回復し、「強いアメリカの再生」を目指す

レーガンが大統領になる直前、アメリカの国際的地位と威信を低下させる二つの事件が起こる。その一つは、1979年のイラン革命に始まる第二次オイルショックである。生産量が減って原油輸入国となっていた米国はその大打撃を被り、国内生産力が低下してしまう。

もう一つが、1979年のソビエト連邦によるアフガニスタン侵攻である。イランの米国大使館人質事件への対応に追われている間隙を突くように中東の産油地帯を見据える地域へと軍事介入したことは、ソ連の台頭とアメリカの権威の揺らぎを印象づけた。

こうした背景の下、レーガンは「強いアメリカの再生」を掲げて選挙に圧勝、1981年に大統領に就任する。しかしその再生には、極度の不振にあえぐ国内経済の復活が必須だった。

スタグフレーション解消、生産性向上、失業率回復をねらう

当時のアメリカ経済が抱える大きな問題の一つが、スタグフレーションである。第一次オイルショックを契機として、賃金は上がらず景気が停滞しているにもかかわらず物価が異常な高騰を見せ、インフレが進行する事態となっていた。

景気の低迷は当然の帰結として高失業率を招く。またスタグフレーションを抑えるために行われた金融引き締め策で金利が引き上げられたため、企業が銀行から資金を借りにくくなり、GDPも産業稼働率も低下、さらに失業者が増加した。

アメリカのもう一つの大きな課題が、生産性上昇率の鈍化である。第二次大戦後から第一次オイルショックまで2.5%程度あったアメリカの平均生産性上昇率は、1973~1980年の時期には0%にまで落ち込んでしまっていた。こうした事態を打開すべく実施されたのが、のちに「レーガノミクス」と名づけられる一連の経済政策である。

減税と規制緩和による生産性向上と経済成長──理想のシナリオ

レーガノミクスの中心政策は、大型減税、規制緩和、軍事費と社会保障費の拡大、小さな政府の実現による歳出抑制だと言われる。その理想的な流れは、次のようになる。

富裕層への減税によって貯蓄も投資も増え、労働意欲が向上する。企業減税と規制緩和をすることで、設備投資が促されて生産力・競争力が強化される。その結果として経済成長率が高まって税収が増える。小さな政府を実現して歳出の抑制も行うことで、減税分を補ってなお歳入が上回り、それを軍事費にまわして「強いアメリカ」を再生する。

ところが現実には、政治的障害から歳出削減は実現できず、期待どおりの成果を上げたとは言い難い。1983年以降はインフレの改善に成功して景気も回復基調に入り、失業率も1988年には就任前より約2%低い5.5%にすることができたが(一時的には9~10%に上昇)、それは政府支出と減税による消費拡大が原因だった。その結果レーガノミクスは、アメリカ経済に大きな影を落とすことになる。

レーガノミクス最大の負の遺産──「双子の赤字」

「小さな政府」を標榜したレーガン政権だが、実質的には省庁の廃止などの公約は実現できず、政府機関の雇用者数も増大。また軍事費も増やしたため政府予算が拡大し続ける一方で税収は期待したほど伸びず、アメリカは莫大な財政赤字を抱えることになる。

さらに、財政赤字を補填し、軍事費の拡大や減税に伴う費用を賄うために大量の国債を発行し、これが金利の上昇を招く。結果として国内の貯蓄は増えるものの投資は拡大せず、外国資金が大量に流入し、ドル高をもたらす。日本や西ドイツの競争力向上も相まって輸出は減退、国内産業は停滞する一方で輸入は増加し、貿易収支の赤字は急激に拡大してしまう。対外純資産も下がり続け、1986年には債務国に転落する事態に陥った。この財政赤字と経常収支の赤字を「双子の赤字」と呼ぶ。

こうした苦境を脱するためにアメリカは1985年、日本、ドイツ、フランス、イギリスに呼びかけて、協調介入によるドル高是正を決める。この5か国間の合意が「プラザ合意」である。その結果、1985年には240円だったドルが1年で170~150円台にまでなった。

はたしてトランプ氏はバブルを招くのか?

レーガノミクスと共通点が多いトランプ次期大統領の政策は「トランプノミクス」と称され、市場は期待を寄せている。その政策はアメリカを、そして日本をどう変えるのだろうか。プラザ合意後の日本では輸出産業が大打撃を受け、それを支えるためにとられた財政出動や金融緩和政策はバブル景気を招いた。その後の成り行きはご存じのとおり、バブル経済の崩壊と「失われた20年」、そして現在も続くデフレ不況に至っている。

選挙中のトランプは保護主義的な発言を繰り返していたし、レーガン政権期とは時代も世界情勢も異なるなかで歴史が繰り返すはずもないが、いずれにせよその動向を注視し、慎重に対応していく必要があるだろう。(ZUU online 編集部)