新幹線,北陸,第三セクター,地域格差,人口減少
(画像=Webサイトより)

新幹線の開業とともに、第三セクターに移管された並行在来線の経営が明暗を分けている。北陸新幹線金沢延伸による観光ブームにわいた石川県のIRいしかわ鉄道や富山県のあいの風とやま鉄道は、予想を上回る利用客もあり、2015年度決算の経常損益で黒字を達成した。

これに対し、他地域の三セク鉄道は経営が厳しい。並行在来線は地域住民にとって欠かせない生活の足だが、沿線人口は急激な減少に陥っている。沿線自治体の担当者は引き続き経営支援を続けるとしながらも、頭の痛い口ぶりだ。

IRいしかわ鉄道は利用が当初予想の1.2倍

民間信用調査機関・東京商工リサーチが、東北、九州、北陸、北海道新幹線の開業で各県の三セク鉄道となったIRいしかわ鉄道など8社の2015年度決算を調べたところ、経常損益で北陸新幹線関連を中心に5社が黒字、3社が赤字に陥っていた。

黒字となったのは、IRいしかわ鉄道、あいの風とやま鉄道のほか、長野県のしなの鉄道、青森県の青い森鉄道、岩手県のIGRいわて銀河鉄道。これに対し、北海道の道南いさりび鉄道、新潟県のえちごトキめき鉄道、熊本、鹿児島両県の肥薩おれんじ鉄道は赤字決算となった。

黒字が最大だったのはIRいしかわ鉄道で、7億4000万円の経常利益を上げた。当初1日当たりの平均利用客を2万1000人と見込んでいたが、1.2倍の2万6000人で推移した。このうち、8000人余りが通勤通学定期を利用しておらず、北陸観光ブームの影響で予想以上の観光利用があったことをうかがわせる。

年間の利用客総数は948万人。その結果、石川県に3億4000万円を寄付したが、それでも法人税などを差し引いた当期純利益2億5700万円を計上した。県は2016年度、運行支援金として1億5000万円を支出する計画だったが、急きょ取り止めている。

石川県交通政策課は「予想以上の利用が続き、経営に好影響をもたらした。人口減少で将来を楽観することはできないが、2016年度の上半期も好調が継続しており、北陸ブームを1日でも長く続けられるように努めたい」と笑顔を見せた。

同じ北陸新幹線関連のあいの風とやま鉄道は1億2100万円、しなの鉄道は3億3300万円の黒字。あいの風とやま鉄道は北陸ブーム、しなの鉄道は善光寺御開帳による観光客増が影響した。

あいの風とやま鉄道は年間に1480万人が利用し、開業前の予測を7.2%上回った。富山県総合交通政策室は「当初、3億円程度の赤字を予測していたが、観光利用の伸びが予想を上回った」と分析する。

しかし、えちごトキめき鉄道は北陸ブームの恩恵が少なく、車庫など開業に伴う減価償却費を計上したため、18億9300万円の経常損失を出した。新潟県交通政策課は「減価償却を除けば順調。40年で負債解消を目指していく方向で事業を進めていく」としている。

肥薩おれんじ鉄道は過去最悪の赤字を更新

北陸新幹線関連以外の三セク鉄道は総じて苦戦している。九州新幹線関連の肥薩おれんじ鉄道は6億1200万円の経常赤字。前年度に5億4000万円の赤字を出し、過去最悪となっていたが、それを更新する形になっている。

熊本、鹿児島両県など沿線自治体から8億3500万円の補助金収入があったため、当期純利益は4000万円余りの黒字で、4期連続の最終赤字を免れたが、沿線人口が急激に減少しているだけに、先行きに不安が残る。

鹿児島県交通政策課は「観光列車の導入で県外や国外から観光客を集めるとともに、地元のマイレール意識を高め、利用促進を図っているが、このまま人口減少が続けばますます経営が厳しさを増しかねない」と頭を痛めている。

東北新幹線関連の青い森鉄道は3400万円、IGRいわて銀河鉄道は9900万円の経常黒字を残した。このうち、青い森鉄道は線路など施設を青森県が所有し、鉄道会社は運行に専念する上下分離方式を採用している。

帳簿上は毎年、利益を出しているが、これにはからくりがある。本来なら県へ支払わないといけない線路使用料5億4700万円のうち、4億3000万円を減免されている。事実上の赤字を県の支援で解消しているわけだ。

青森県青い森鉄道対策室は「沿線は人口減少が激しく、減免措置はやむを得ない。今後も経費削減を進める一方、産直列車の運行などにも力を入れ、利用促進を図りたい」と苦しい胸の内を打ち明けた。

IGRいわて銀河鉄道は徹底した経費削減と通学定期の売り込みなどで黒字を確保したが、経常利益は前年度の5分の1に下がった。岩手県地域振興室は「引き続き最大限の努力をして公共の足を守りたい」と語った。

経営努力だけで路線維持はもはや限界

ただ、このまま地方の人口減少が続けば、鉄道会社の努力や自治体の支援だけで地方の鉄道を維持するのに限界が来そうだ。同じ公共の足でありながら、バス会社は道路整備に予算を取られることなく、運行に専念している。鉄道会社だけが施設の維持と運行の両方を受け持ち、黒字経営を求められるのは酷な感じもする。

国の予算で鉄道支援と道路維持に使う額はけた違いに道路が多い。上下分離方式を採用し、自治体が施設管理を受け持つ一方、鉄道の維持に道路予算を投入できるようにするのも鉄道を残すための方策となるだろう。

高齢化社会の進行で公共の足を必要とする人は増えている。国は自治体や鉄道会社に健全経営を求めるだけでなく、時代の変化に対応した公共の足確保の方法を考える時期に来ているのかもしれない。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の 記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。