イーロン・マスク氏は、南アフリカ共和国出身、在米の起業家である。PayPalの前身であるX.comの共同設立者であり、宇宙ロケットを製造するスペースX、電気自動車のテスラ・モーターズのCEOとして知られる。

先進の技術を扱うベンチャー企業の創始者として高い評価を受けているが、同時に非常に変わり者としても知られている。今年の9月には、IAC(国際宇宙会議)の壇上で、2020年代に1人当たり2000万円で有人火星飛行が可能になる、又40~100年をかけて100万人を火星に送り込んで自立した文化を築くといった構想を発表し、全世界の度肝を抜いた。新幹線の2倍の速度を実現する「夢の高速輸送機」ハイパールーフのアイデアも公表している。

マスク氏が現在、注力しているのが太陽光事業である。

マスク氏が狙う次の変革

テスラ・モーターズは、ポルシェよりも早い電気自動車(テスラ・ロードスター)を作り、電気自動車の業界に革命をもたらしたが、次には太陽光事業で革命を起こそうとしている。

マスク氏という人物は、可能性のあるビジネスを見つけ、問題を取り除いて成功させる事が得意だ。電気自動車の問題は、車両が不恰好で性能が低い事だったが、マスク氏は、スポーツカーの様な魅力的なフォルム、ポルシェをしのぐ加速性能を誇る電気自動車を作り、電気自動車のイメージを一新した。

現在取り組んでいる太陽光事業で問題となっているのは、低効率、高価格という事だ。そのため、テルサ・モーターズは高効率のパネルを生産する企業ソーラシティ社を買収し、高効率で耐久性に優れるパネルを低価格で大量生産する工場の建設し、太陽光による未来のエコシステムの構想を実現しようとしている。

ソーラー・シティ・アイランド

マスク氏が未来の構想を試そうとしているのが、南太平洋に浮かぶ米領サモアのタウ島という火山島である。タウ島の電力は、ディーゼル発電により賄われていた。

しかし、ディーゼル発電では全島民へ十分な電力を供給するには問題があったため、テスラは米国政府と共にプロジェクトを発足したのである。このプロジェクトでは、ソーラーパネル、リチウムイオン蓄電池を導入し、24x365の電力供給の実現、停電や電力不足の解消を行った。

さらに60基のパワーパック(太陽光によって発電された電力を備蓄する巨大バッテリー)を設置し、マイクログリッド方式(大規模発電所に頼らず、特定地域内で発電し、その地域内で電力を消費するエネルギー・ネットワーク)で全島に電力を供給するシステムを構築した。マスク氏は「タウ島の様子は未来の絵葉書ではなく、世界中の再生可能エネルギーを必要とする多くの場所へ解決策を示すものである。ディーゼル燃料に頼っていた島が、太陽光により、エネルギー供給の在り方を変換した例証なのだ」と述べている。

現在米国では、トランプ次期大統領が、電気自動車購入者への最大7500ドルのインセンティブを廃止しようとしているため、テスラ・モーターズの株価は下降気味であった。しかし、タウ島のソーラーアイランド構想のニュースは市場に好感を与え、株価は回復基調にある。家庭用電力供給からコミュニティ全体の電力供給まで、テスラ・モーターズの今後の動きは、ますます加速しそうである。

マスク氏の考えるエコシステム

マスク氏は株主総会で「テスラはワンストップで、ソーラー・ルーフからパワーウォール、電気自動車までを提供できる場所となる。顧客は、テスラ・ショップを訪れるだけで全てのサービスをシームレスに受けられるようになるだろう」と語っている。

彼は、電気自動車の充電ステーション・ネットワークを構想しており、家庭内電力と電気自動車を総合的に、太陽光によって充電するエコシステムを構想している。電気の使用者の近くで発電を行って備蓄、そこから必要に応じて、各家庭、ビジネスに電力を供給するパワー・オン・デマンドのシステムを目指しているのだ。

このパワー・オン・デマンドでは、天候に左右されずに十分な電力を供給する必要があるため電気の備蓄の技術が重要となる。

そのためテスラは、パワーパックという電力を備蓄する巨大バッテリーを開発し、マイクログリッド方式を実現している。

現時点でマスク氏の取り組む太陽光発電事業の課題は多い。

財政面を見るとソーラシティの買収による資金面の課題が大きい。コスト面ではソーラーシティは、2015年に11万枚という業界トップのソーラーパネルの設置数を誇り、業界をリードしているが、「売り上げ1ドルを生み出すのにコストが6ドル近くかかっている」という噂もある。

このような中で、テスラ社は通常の屋根と見分けがつかない太陽光発電パネルの「ソーラー・ルーフ」やリチウムイオン蓄電池の「パワーウォール」など、新しい技術を次々とは発表している。

マスク氏の型にはまらない物事の進め方、テルサの技術力により、今後、太陽光発電のエコシステムが近い未来に実現する可能性もある。テルサ・モーターズ及びマスク氏の今後の動向に注目したい。(ZUU online編集部)