(写真=PIXTA)
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着実に資産を増やす「投資の心得」とは

「投資における賢者と愚者を分かつ3つのポイント」
1. 大天井の前に売り切って爛熟相場の旨みは食えずに我慢する強靭な精神力
2. 大底近辺まで待つ粘着性の強い持久力
3. 大底近辺で人も我も弱気のときに「弱気の我」を超越して買いに出るという行動力
(『賢者の投資、愚者の投資』15ページより)

『賢者の投資、愚者の投資』山崎和邦著
『賢者の投資、愚者の投資』山崎和邦著

『投機学入門』『投資詐欺』(ともに講談社)など多数の投資関連著書で知られる山崎和邦氏。半世紀を超える投資歴の前半には野村証券でトップ証券マンとして活躍し、後半は自己資金で膨大な金融資産をつくり、現在も現役投資家として、また大学院教授として投資の世界に身を置いています。

その山崎氏の著書 『賢者の投資、愚者の投資』 (以下、同書)において、50年を超える実践からつかんだ相場哲学を、一般の投資家に向けてあますところなく公開しています。

本稿では同書から、山崎氏が「ブラックマンデー」「バブル崩壊」の直前に手持ちの株式を売り抜け、大きな利益を獲得したエピソードを紹介します。そのエピソードに、多くの投資家の参考になるであろう、氏の投資哲学が端的にあらわれているからです。

ブラックマンデーの大暴落の前日に全株を売り抜けたとき

1987年10月19日月曜日。ニューヨーク株式市場において史上最大規模の株価大暴落が起きた。ダウ30種平均の下落率22.6%は、世界恐慌の引き金となった1929年の「ブラックサーズデイ」の12.8%を大きく上回った。世界同時株安の引き金となり、日本市場も翌火曜日に過去最大の暴落を起こした。

日本では1985年に電電公社が民営化され、87年にNTT株が1株119万円で売り出されました。そして上場直後に300万円を超える値をつけています。これをきっかけとして、また折からの景気拡大も好材料となり、企業も個人も株式投資に積極的になっていました。

山崎氏が当時勤務していたビルからは、証券会社の株価表示板が見えました。毎日のように、どんどん上がっていくNTTの株価を見て、同僚たちは興奮を隠さなかったそうです。彼らを見て山崎氏は強い違和感を覚えていました。

「カネは株式市場で自動的に増えるものだと思い込んでいる。間違いなく世も末だ」(同書172ページより)

その年の10月のある日、会社恒例のゴルフコンペがあり、120人の参加者が前日に大型バスでゴルフ場のホテルに向かっていました。その車中では、見識が高いはずの役員、部長たちが酒を飲みながら、株の儲け話におおいに花を咲かせていたそうです。これを見た山崎氏はこう思いました。

「異常である。(中略)このバスの中の異常さは大天井近くの酔っ払い状況である。筆者の常識や見識から見れば異常中の異常である。異常な状態からは早く脱出せねばならない、と強く思った」(同書173ページより)

その月曜日が「ブラックマンデー」でした。翌火曜日の日本市場では全銘柄が一斉に売られ大暴落を起こしました。この日の下降幅はいまも越えられていません。

周囲からは「暴落を寸前で予知した大叡智」といわれたそうですが、山崎氏の見方はそうではありません。むしろ氏以外の周りの人たちが好環境に浮かれた酩酊状態にあった、自分は常識的な判断をしたまでだ、といいます。

しかしその背景には、投資家として賢者であるためには 「自由を求めて自律的に生き、己に課した律法を持ち、健全な金銭観を保持」 しようとする、強い志向を持たなければならないという氏の考えがあるのです (カッコ内同書161ページより)

バブル大天井の1ヵ月前に持ち株の全株を売り切ったとき

1986年頃から急上昇し始めた日経平均株価は1989年12月、38,915円の市場最高値をつけた。それがいわゆるバブル景気の大天井だった。1990年の年明けから株価は暴落に転じた。

1989年の夏、避暑地での休暇中に、山崎氏は3冊の本を読んだそうです。その3冊とは、森本哲郎著『ある通商国家の興亡』(PHP研究所)、ジョン・トレイン著『金融イソップ物語──“あと一歩”で儲け損なった男たちの話』(日本経済新聞社)、高坂正堯著『文明が衰亡するとき』(新潮社)。いずれも、人や国家の繁栄と没落を描いたもので、これらを読むうちに「これはみなオレの運命を予告している!」と考えずにはいられなかったそうです。

当時は、会社での担当部門の業績も良く、個人の金融資産も4年で4倍になるなど、いい状態にありました。しかし山崎氏は、この3冊の本が自分に「カネ儲け以外に有意義なものを見出さなければ没落する」と、強く警告しているように感じられたといいます。

そして休暇明け、氏は思い切った行動に出ます。8月から10月にかけて、全株を売り切ったのです。直後は株価がまだ上がり、前述のように12月に史上最高値となりました。悔しい思いもあったそうですが、それも少しの間のこと。1990年の正月明けから日本株は大暴落しました。ここでも氏の感覚、判断は正しかったのです。

まだまだ「おいしい」相場から一時的にせよ撤退するには、よほどの思い切りが必要ではないでしょうか。この点について氏はこういっています。

「実は大天井直近が一番おいしい。その爛熟相場の旨みを食わずに少し前に売り切るということは、情報力とか投資技術などに関係なく自分の生活態度からくる。少々、おおげさにいえば、見識ある生活からくる」(同書174ページより)

山崎氏は、相場がいかに過熱していようともそれだけに没入することなく、市場とは一定の距離を置きながら、着実に資金を増やしていくことが重要だと説いています。そうした考え方こそが、周囲の熱狂をよそに冷静な判断を下せる要因なのでしょう。

本書は、50年を超える投資活動で膨大な金融資産を構築した現役投資家の考え方、行動のしかたを追体験できる稀有な本。

山崎氏は、「現役のビジネスパーソンのポートフォリオは本業における年収が中心に据えられていなければならないと考えている」と述べています。

やや逆説的に聞こえるかもしれませんが、株式投資にのめり込み過ぎず、本業を持ち、常識を保ち、自分を律すること。これが投資における「賢者」の心得なのです。(提供: 日本実業出版社 )

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