米国のスターバックスの創業者のハワード・シュルツCEOが11月30日、来年4月に退任すると発表した。翌12月1日の米スターバックス(ティッカー:SBUX)の株価は2.2%安と大きく下げた。優れた創業者や会長・社長が経営者としてリーダーシップを発揮して成長を牽引してきた会社ほど、その経営者が退任したときに売られるリスクがある。日本での売られた会社と影響を受けなかった会社を比較してみよう。

経営者リスク暴露、セブン&アイ、スズキ

カリスマ経営者が会社を牽引している企業には、その経営者に対する株価プレミアムが付いていると言われている。その経営者が退任・解任したり、在職中に大病になったり死亡したりといったことが起こると、そのプレミアムが剥げて大きく売られることが多い。それを「経営者リスク」と称している。社長交代は、企業にとって株価を大きく左右する「重要事項の適時開示」に該当する情報なのだ。特定の経営陣への依存度が高いと思われる会社は有価証券報告書のリスク項目に明記する必要があるのだ。

セブン&アイ <3382> をここまで作り上げた流通界のカリスマ鈴木敏文会長は、2016年4月7日午後に突然退任を発表した。鈴木氏は同日午前の取締役会で、セブンイレブン社長兼最高執行責任者(COO)の井阪隆一氏を退任させ、後任に古屋一樹取締役執行役員副社長を昇格させる人事案を提出した。しかしそれが否決されたため、自らセブン&アイの経営から身を引く決意を固めた。セブン&アイの株価は同日午前中に、井阪氏の退任で一時8.6%安の年初来安値まで下げたが、午後に1.6%安まで下げ幅を縮めた。

スズキ <7269> の鈴木修氏は2015年6月30日、「会長兼社長」から「会長兼CEO」になると発表した。記者会見で、執行の現場からは徐々に身を引く構えだと語ったため、翌日のスズキの株価は3.0%安と下げ、スズキ・ショックと言われた。

クックパッドは穐田氏で売られオウチーノは穐田氏で買われる

料理レシピサイトのクックパッド <2193> では、2016年3月24日の株主総会後に穐田誉輝社長が解任された。穐田氏は創業社長だった佐野陽光氏の後を受け継ぎ、クックパッドを大きくさせた立役者だった。社長の解任をお家騒動と市場はとらえ、翌日の株価は13.4%安と急落した。

面白いのは、その穐田元社長が2016年10月28日、クックパッドに籍をおいたまま、住宅・不動産サイトで経営不振のオウチーノ <6084> に個人でTOBを掛けたことだ。穐田氏が将来的にオウチーノに移り経営者になると市場は予想し、同社の株価は、4日連続のストップ高となった。経営者プレミアムの好例といえるだろう。

キーエンスのカリスマ会長退任は株価に影響なし

キーエンス <6861> と言えば、平均年収が日本一高い会社として名前があがる企業として有名だ。高給料を支えているのは、創業者でカリスマ会長である滝崎氏が作ったセンサーを軸とした提案型のビジネスモデルで、営業利益率が50%を超える超高収益体質だ。

その滝崎社長が退任を発表したのが2015年2月2日。退任発表2日後の2月4日には上場来高値を更新しており、株価への影響はほとんどなかった。

これは、滝崎社長は2000年に社長から会長となり、後継者の非創業家出身の佐々木氏を社長として育てていたからだろう。また、退任発表と同時に、好業績を発表したことも大きい。2015年3月期の第3四半期(4?12月)の決算は、売上26%増、営業利益35%増と好決算だった上、前佐々木社長が掲げていた海外売上比率50%、営業利益率50%という目標を達成した。滝崎社長退任の花道としては絶好のタイミングだったから株価への影響がなかったのだろう。

引退には後任の育成が鍵

やはりいくらカリスマ社長といえどもいつか最前線を去らねばならないときがくる。キーエンスの例から言うと早めに後継者を育て周囲に認識させることが一番大事なのだろう。そして花道を作ってバトンを渡すことだ。

今、経営者リスクが高いと言われる企業には、孫正義社長のソフトバンク <9984> 、柳井正社長のファーストリテイリング <9983> 、日本電産 <6594> の永守重信会長、ニトリ <9843> の似鳥昭夫社長、ヤマダ電機 <9861> の山田昇社長などだろう。ソフトバンクの孫社長は後継者として高給で雇いながら、その副社長のアローラ氏は今年6月に突如退任を発表した。ユニクロの柳井社長やヤマダ電機の山田社長は一度会長職になったが、会社の業績低迷などで社長に舞い戻りまた最前線で旗を振っている。後継者選びは、言うほど簡単でもないから難しいのかもしれない。(ZUU online 編集部)