誰でもかかってしまう恐れがある精神的な症状「イップス」。特にスポーツの世界では、競技の種類に関わらず症状が出てしまう例が多いとされている。
スポーツの世界では思い通りのプレーができずにイップス症状が発症してしまい、さらにパフォーマンスが低下してしまうことがあるようだ。特にメンタルの部分がプレーに反映される競技の選手に多いという。
このイップス症状、実はスポーツ選手に限らずビジネスパーソンにも無関係な問題ではないのだ。もしビジネスの重要なシーンで突然イップス症状が現れてきた場合、どのような注意が必要になるのだろうか。
スポーツ選手を苦しめるイップスとは何なのか?
イップスは特にゴルフの世界で有名な症状だ。ゴルフは、小さなボールを遠くの狭いカップにほんの数打で入れなければいけない緻密なスポーツ。スイングにも影響が出やすく、メンタル面を整えることが特に重要だ。
メンタルを極限に整えなければいけない場面ではプレッシャーにより、手足が震えて嫌な汗が噴出し、全身が硬直してしまう。これがイップス症状だ。症状が原因で大きなミスを重ねてしまう例も少なくない。
イップス症状はゴルフだけでなく、その他の球技全般や陸上競技・弓道や剣道などの武道においても現れることもある。
どのような人に症状が現れやすいのかというと、「真面目・責任感が強い・優しい」などの性格の持ち主に発症例が多いようだ。考え込んでしまうようなタイプのスポーツ選手は、特に気をつける必要がある。
具体的な症例としては、緊張のあまり自分が何をやっているのかわからなくなる・筋力をうまく引き出すことができず力が入らない・失敗を恐れるあまり何もできなくなる、などが挙げられる。
野球界の最高峰選手をも悩ませてしまうイップス症状
イップス症状に苦しめられる例は、プロ野球の世界で意外と多い。球界の名手、福岡ソフトバンクホークスの内川聖一選手もイップスに苦しめられた1人だ。
内川選手は打点の多さや打率の高さからもわかるように、特に打撃を得意としている。しかし、守備に関しては送球に対して大きな不安を抱えていた。内野での送球のミスは大きな失点につながる可能性もあることから不安が増大し、イップス症状を発症してしまったのだ。
内川選手は外野にコンバートすることでイップス症状を克服したが、最後まで症状を克服できず、ついには引退にまで追い込まれた選手の例もある。2002年にドラフト1位で中日に入団、その後ヤクルトに移籍した森岡良介選手だ。
森岡選手は選手会長を務めるほどチームに欠かせない存在。しかし、打撃不振で試行錯誤に苦しんでいた2016年8月、突然キャッチボールができなくなる。イップス症状だ。大事な試合中でも、簡単な捕球さえ失敗するようになり現役引退を決意した。
ドラフト1位入団の輝かしい過去を持つプロ野球選手でさえ一度イップス症状に悩んでしまうと、キャッチボールができなくなり引退を決意するほど深刻な状態になるのだ。
ビジネスパーソンにも起こりうる「ビジネスイップス」
イップス症状が現れるのは、スポーツ選手に限ったことではない。一般的なビジネスパーソンにも起こる可能性は十分考えられる。特に重要な決断を下すべき立場にある経営者やマネージャーなどが、ビジネスイップスに陥りやすいと言われている。
できるビジネスパーソンは次々と成果を出し、地位が上がり責任が増してくる。そんな時に大きなミスや裏切りなどを体験してしまうと、そのショックから決断を下しにくくなってしまうのだ。
決断を下せなくなることはもちろん、ひどい時は根本的な事業意欲さえも失ってしまう可能性さえある。そうなると現場のスタッフは混乱してしまい、業務の滞りが顕在化してしまうだろう。会社としての存続を脅かすような大問題になってしまうかもしれない。
ビジネスパーソンがイップスに陥った場合の対処法
もし自分がイップス症状に陥ったしまったと感じるのであれば、いくつかの対処法を実践してみるといいだろう。
まずは人に打ち明けるなどして、自分がイップス症状であることを受け入れることが最も重要だ。休みを積極的に取ったり、帰宅時間を早めたりして精神を落ち着かせることは有効な対処だと言える。
仕事自体にも変化を持たせた方がいいかもしれない。何でも自分だけで抱え込まず、部下を信頼し仕事を任せることも必要だ。物事を俯瞰できる位置に立ち業務全般を確認することができれば、心の余裕もできてくるだろう。
精神が落ち着き心の余裕ができてきたのであれば、自分が得意とすることや成功しやすい簡易な業務から少しずつ解決していくことが順番としては望ましい。
このような経験を乗り越えた時こそが、ビジネスパーソンとしてのさらなる成長に繋がっていく要因となるのかもしれない。(藤瀬雄介、スポーツ・ヘルスケアライター)