アメリカ大統領選でトランプ氏が当選してからの急激な株高を誰が予想できたであろうか。日経平均株価は、1万6251円(11月9日終値)から1万9401円(12月28日終値)まで僅か1ヵ月半で一気に20%近い上昇を遂げている。

しかし、トランプ氏の正式な大統領就任は2017年1月20日。期待感から盛り上がっている相場も、いつか反落するのではないかと不安を持っている投資家も少なからずいるのではないだろうか。そこで、株価下落に備え、自分の大切な財産を大きく減らさないようにするリスクヘッジの方法を3つほどご紹介したい。

「信用売り」 株価の下落時にも利益が狙える

株価の下落時に利益を狙うことができる「信用売り(空売り)」である。信用取引とは、証券会社に現金や株式を担保として預けることで、担保の数倍もの株式購入などが可能となる取引(レバレッジ取引)のことをいう。信用取引を行うには信用取引口座の開設が必要で、現物取引とは異なり、売買手数料のほかに金利や貸株料などがかかる。

信用取引の特徴として上述したレバレッジ取引以外に、証券会社などから株式を借りて「売り」から始めることができる点にある。いきなり「売り」と言われても分からない方のために簡単に説明すると、株価の下落時にも利益を出せる取引のことだ。もう少し詳しく説明しよう。

まず、自分が下落しそうだと思う企業の株式を証券会社から借り、その株式を売却して現金化する。借りた株式はいつか返さないといけない。そして、株価が下落したところで同じ株数を買い戻し、借りた株数を証券会社に返す。売却金額と購入金額の差額は利益をなる取引だ。以下の例で、具体的な数字を使ってみていこう。

【信用取引の売り】
① 証券会社から、A銘柄を100株で借りる
② 借りたA銘柄100株を1000円で売却(100株×1000円=10万円)
③ A銘柄100株が900円になったところで購入(100株×900=9万円)
④ 借りた株式100株を証券会社に返却
⑤ 10万円-9万円=「1万円」が利益に

あるいは、保有している株式を手放したくないが、株価の下落にも備えておきたいという場合にも、信用売りがリスクヘッジの有効な手段となってくる。ただし、「売り」ポジションを取っている際に、株価が上昇した場合には損を被る可能性があるためリスクもある。

では、信用取引でないと下落時に利益を出すことが出来ないかというと他にも方法がある。現物取引において信用売りと同じ効果を期待できるのが「インバース型ETF」である。

「インバース型ETFの活用」

インバース型ETFの説明の前に、ETF(Exchange Traded Fund)は上場投資信託とも呼ばれ、日経平均株価やTOPIXなどの株価指数に代表される指標へ連動を目指す投資信託のこと。名前にある通り、投資信託でありながら証券取引所に上場しており、通常の株取引と同様にリアルタイムで売買することができる。

日経平均株価やTOPIX以外にも、NYダウやREIT(不動産投資信託)、金や原油などの商品指数に連動するものなど、さまざまな種類のETFが取引されている。(平成28年12月現在205銘柄/日本取引所グループ発表)また、一般の投資信託に比べて信託報酬といった運用コストが安く、売買手数料も個別銘柄と同じ扱いのため低コストで運用することできる。

個別銘柄であれば企業分析など必要になるところだが、ETFの場合は全体の流れ(日経平均などの指数)に連動することや、指数はニュースでも見聞きできるため、比較的簡単に動きを把握しやすいという特徴もある。

ETFには「レバレッジ型ETF」と「インバース型ETF」と呼ばれる種類があり、インバース型ETFに投資することで株価下落のリスクに備えることができる。

レバレッジ型ETF(ブル型)とは、対象指標の変動率に「◯倍(2倍、3倍…)」といったカタチで一定の倍数を乗じた変動率となるように設計されたETFのこと。

それに対し、インバース型ETF(ベア型)は、指数と反比例(−1倍、−2倍…)する動きを目的とする。そのため、日経平均を参考指数としたものでは、日経平均が上がればETFは下落し、日経平均が下がればETFは上昇するのだ。インバース型ETFを購入することでリスクヘッジを図ることができるのである。参考指数の2倍に連動することを目的とした「ダブルインバース型ETF」がある。例えば、上記同様に日経平均を参考指数としたものでは、日経平均が5%下がると、ダブルインバース型ETFは10%上昇するように設計されている。ダブルインバース型ETFを使えばレバレッジをかけることもできるのだ。

以上、株価の下落時に備えておくことができる「信用売り」と「インバース型ETF」を紹介したが、リスクヘッジの手段をもう一つ挙げておこう。

「キャッシュポジション」の重要性

人間心理として、株が上がっているときはもっと上がると強気になり、下がっているときはもっと下がるのではないかと弱気になるのが一般的である。その結果、上がっているときは資金をつぎ込むことになり、下落したときに資金不足で買いたくとも買えない状況になりがちである。下落時に、買いたくとも口をあけて眺めているか、保有している株式が下がっていくのを不安な思いで見ているか、あるいはどこまで下がるかわからない恐怖心のあまり下がったところで売却してしまうか。

いつ下落の場面がやってくるかは誰にもわからない。すなわちバーゲンセールがいつ訪れるのかは誰にもわからないのである。高くなったときや利益が出ているもの、また、上がる見込みがないものについては売却をして、バーゲンセールに思う存分参加できるようにキャッシュポジションの比率を高めておくことが肝要ではなかろうか。

株式市場は気まぐれである。何が起こるかわからないのがマーケットであるからこそ、できうる限りのリスクヘッジをして下落にも備えておきたい。

竹内道子 FPオフィス道~michi~ 代表
証券・保険・不動産販売および独立系FP会社で経験を積み、ファイナンシャルプランナーとして独立。資産運用・老後資金・住宅ローン・保険などライフプラン実現に向けた相談に年間300組以上受ける傍ら、企業従業員や一般消費者に向けてマネープランなどのセミナー講師を務める。机上の空論ではない実務経験に基づいた問題解決・夢の実現を強みとする。