日本資本主義の父と評される渋沢栄一の孫の孫にあたり、現在はコモンズ投信の会長を務める渋澤健氏。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務、米大手ヘッジファンドの日本代表を務めたこともある同氏は2016年をどのような年だったと振り返るのか、また2017年はどのような年になると見ているのか。(聞き手:ZUU online編集部 菅野 陽平)
※ インタビューは12月19日に行われました。
積立投資家にとって2016年は良い年だった
——2016年を振り返ると、どのような印象でしたか。
振り返ってみますと、円安ドル高が進むブル相場(株価上昇局面)で2016年に突入したわけですが、私はさらに円安が進むというより、どちらかというと円高のリスクがあると思ってました。なぜかと言いますと、2016年はFRBが引き締めを加速させるという予想が2015年末に多かったですが、大統領選挙も控えてますし、ひょっとしたら2016年は利上げしないのでは、と考えていたためです。
ですので、年初から円高株安が続きましたが、私にとってはそんなサプライズではなかった。100円を割れるくらいのときは、良いレートで円を米ドルに替えることができる、ここ数年で最後のチャンスと思っていました。
——なぜ、そのようにお考えになったのでしょうか。
構造的には円安ドル高が進んで然るべきだからです。日本は年間80兆円マネタリーベースを増やす量的緩和を進めている一方、米国は緩やかな金利引き上げ方向です。日本は、間接的と言いながら、やっていることは財政ファイナンスそのものなので、構造的な円安は変わらないと考えています。政府の金融政策とは円現金の価値を意図的に下げることですからね。従って、何らかの混乱による円高は、米ドルをはじめとした外貨へ替える好機と思っていました。
————米国では大統領選挙でトランプ氏が勝利しました。
米国大統領選挙は、私もクリントンさん勝利と予想していました。ただトランプさんは、基本的にビジネスをやってきた人なので、ビジネスに対して、特に米国ビジネス界に対して、そんなにマイナスなことをやるはずがないと思っています。
トランプさんは大型減税と大型インフラ投資を掲げているわけですが、どちらにせよ米国の財政は拡大方向に進むわけです。お金を借りる最中では「強いドル」は有利なので、そういう意味では、もしトランプさんが大統領選挙を勝利するようなことがあり、そのショックで円高や株安になったら、そこは絶好の買い場なんだろうなって思ってたんですね。まさか、下落は日本市場だけで、米国市場からすごい勢いで巻き戻すとは想定していなかったですけど。
——ボラティリティ(資産価格の変動幅)が大きな1年でしたね。
株価や為替の変動幅は大きかったですが、どちらも結果的に年次で比較すると2015年末と大きく変わらない水準です。従って、スポット買いの年次パフォーマンスは「行って来い」だったのでパッとしませんでしたが、積立投資の目線で考えた場合、2016年はとても良い年でした。
例えば日経平均は2015年末から2016年末までプラス2%弱ですが、同じ期間を毎月積み立てすると、14%ぐらいのリターンになりました。そういう意味では、ドルコスト平均法で時間分散している人が報われた1年でしたね。定額で積み立てるということは価格が下がれば下がるほど口数が多く購入できることになるので、相場が反転したときに、これが効いてくるのです。
——2017年はどのような年になるとお考えでしょうか。
2016年末に向けて、買えていなかった人たちが焦って買ったトランプラリーはもう少し続くかもしれません。しかし、今はみんなが「トランプって案外悪くないよね」という評価は、いずれ織り込まれると思いますので、次第に期待との乖離がでてくるでしょう。早ければ大統領就任日の1月20日あたりが、ひとつの節目になるかもしれません。
ただトランプさんはあのような性格の方なので、自分をサポートする人たちが聞きたいことを言う天才じゃないですか。一部の人にしかウケないけれども、そこには強烈にウケることを言いますよね。主要閣僚の人事を見ると、なんとなく資本市場、ウオール街ウケする人たちを入れているので、トランプさんからすると、現在自分のサポーターは株式市場だと思ってるんじゃないかとも読み取れます。マーケットが聞きたいことを大声で言うでしょう。でも、この期待と実態の乖離が今年のボラティリティの原因になりそうです。
基本的に私は、米国経済はそんなに心配してないのですが、問題は軍事的介入が必要な有事が起こったときですよね。素人が世界最強の軍隊の最高指令官ですから、ブラックスワン的なリスクは計り知れない。あまり想像したくないところなんですけど、それは常に抱えていると思います。
アクティブ投資を薦める理由
——日本経済に関してはどのようにお考えでしょうか。
日本企業の平均PBR(株価純資産倍率)は1倍を少し上回るくらいです。1倍割れの企業も多いですが、これらの企業の財務的価値と比べると安くマーケットが評価してプライシングいるといるということになります。端的に言えば、「会社を解散させた方が良い」と烙印を押されているわけです。企業の財務的な価値が1あるのに、PBRが0.8ということは、0.2分、そこで働いている経営者や従業員がそれを毀損しています、と言われているようなわけです。すごくシンプルに考えるとそういうことですよね。
逆にPBRが2とか3とかつく会社というのは、将来に対して成長期待がマーケットにあるということですが、その成長期待は誰がどう作っているんですか?それはそこで働いている経営者や従業員といった人の価値だと思うんですね。しかし人の価値は、どうやって図れるのでしょう?そう考えたときに、人件費や社員数といった数字は出せますが、その人たちが未来に対して創る付加価値は、なかなか数字化できないわけなんですよね。それが非財務的なプレミアムだと考えています。
そのように考えると、PBR1.0割れ企業の人の価値がマーケットから正しくプライシングされていないということもありえますね。つまり、割安に放置されている可能性があるということです。マクロ要因が変わらなくても、日本企業で働く人の価値の評価が高まるだけで、日本株式は上昇の余地があるということです。
——渋澤さんは日本株の積立を推奨されていますね。
個人の積立の長期投資派のなかでも、インデックス派とアクティブ派に分かれます。宗教みたいなものなので、どちらが正しいか、間違っているということは絶対的には言えないと思います。ただ、私は日本株に関しては個別企業の価値創造を運用の要とするアクティブ派です。インデックス投資のメリットとしては、コストが安いことが挙げられます。積立が長期であればあるほど、コストがパフォーマンスに与える影響は大きくなるわけです。
理論的にはその通りです。ただ「企業と投資家との対話」は、資本市場の発展にとってとても大切な兆候だと思います。ただ日経平均採用銘柄225社、あるいは上場企業約3,800社すべてがやってるわけでもないし、やる意思があるわけでもないと思うんですよね。そもそもインデックスに話しかけても、応答してくれるわけがありません。対話の意思がある企業の人の価値を含む非財務的価値がマーケットから評価されてリスクプレミアムが広がる、これが本来あるべき姿だと考えています。
私のイメージは、インデックス投資はお正月の福袋。なかには、すごく欲しいものが入っていて安く手に入るかもしれないけれど、色々入っていて、必ずしも欲しいものばかりではない。インデックス投資の有効性は色々なところで書かれています。ただ、その大元の文献は米国市場の研究に基づいています。ウォーレン・バフェットさんが「個人投資家はインデックス投資で十分」と言ってますが、それは、米国市場は新陳代謝が激しいからです。NYダウやS&Pを過去50年振り返ると、すごい勢いで企業が入れ替わっています。日経平均やTOPIXの過去50年を同じ時間軸でパフォーマンスを比べたら一目瞭然です。
転じて日本の株式指数に含まれる企業はほとんど入れ替わっていない。IT企業など一部が入ってきていますが、時価総額上位の企業は基本的にはほとんど入れ替わってない。新陳代謝が少ない市場はダイナミズムが枯渇しやすいです。実際に、日本株式市場の「全体」や「平均」は約30年前の平成バブル高値を一度も超えていない。でも、個別企業では結構な数があります。これが、日本株を10年、20年、30年単位の長期投資で考える際に、私がアクティブ運用を推奨する理由です。
——最後に 個人投資家の方へメッセージを頂けますか。
20代や30代の頃の私は、きったはったの金融市場で生きていて、それが楽しくて仕方なかった。でも40歳の頃、子どもを授かり、真剣に将来を考えてみました。
30年後とか、そんな遠い未来のことは当然私も分からないのですが、人口動態の予測は大きく外れないわけです。日本は将来、ほぼ間違いなく人口が減っていき、少子高齢化がますます進む。それ見て、自分と自分の子ども、あるいは将来の孫のことまで考えて何をすべきかというと、いかに上の世代が蓄えた資金を計画的に次の世代に回していくかだと思うんですよね。
積立投資は、大金持ちだけの特権でもなんでもなくて、誰でもできる。月数千円からできますから、大学生からでも、20代の頃からでも始められるってことじゃないですか。「時間」とは自分にとって、最も重要な財産です。積立投資は参加し続けることが一番大切です。なかには少し利益が乗ると解約する方もいます。目先の動きに惑わされず10年、20年、30年単位で考えて資産運用して頂きたいですね。
渋澤健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本資本主義の父と評される渋沢栄一の孫の孫にあたり、渋沢栄一に関する著書も多い。
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