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(画像=Webサイトより)

文部科学省は、博物館や美術館、文化ホール、スタジアムなど地方自治体などの文教施設に対し、所有権を残したまま運営権を民間事業者に売却する「コンセッション方式」の導入を促す方針を固めた。2018年度までに3件の具体化を目指す政府目標を受けた対応で、有識者検討会の提言を受け、2017年度にガイドラインを作成する。

コンセッション方式は民間事業者の柔軟な発想で収益アップが期待されているが、美術館など公共性の高い事業で収益優先の事業が推進されかねないとの懸念が出ており、公共性に対する十分な配慮も求められている。

施設を国や自治体が所有、運営を民間事業者に

コンセッション方式とは、高速道路や空港など料金徴収を伴う公共施設について、施設の所有権を公的機関に残し、運営を特別目的会社として設立される民間事業者に売却する制度。民間の創意工夫で施設をさまざまに活用し、事業収益の増加や施設稼働率の向上が期待されている。

2016年度から大阪府、兵庫県の関西、伊丹両空港、宮城県の仙台空港、愛知県道路公社所有の有料道路でスタートしているほか、上下水道などで導入検討に入っている自治体も少なくない。

政府の民間資金等活用事業推進会議は2016年5月、国や自治体が所有する文教施設のうち3件に対し、2018年度までにコンセッション方式を導入する目標を掲げた。文科省はこれを受け、有識者検討会を設置、議論を進めている。

検討会は山内弘隆一橋大大学院教授、井上雅之大阪市経済戦略局長ら11人の有識者で構成され、これまでに計6回の会議を開いてきた。2016年8月に論点を整理した中間まとめを公表しており、3月末までに最終報告をまとめる。

文科省はコンセッション方式導入対象の文教施設として、博物館や美術館、文化ホール、体育館、スタジアムなどを挙げている。支援策として考えているのは、構想、立案段階で助言を受けるためのコンサルタント外注費の補助などだ。

文科省施設企画課は「検討会の最終報告を受け、導入に向けたガイドラインを作成する。政府目標の達成に向け、自治体などに導入を促したい」と述べた。

文科省が想定する候補は大阪新美術館

文科省がコンセッション方式導入候補の1つに挙げるのが、大阪市が北区中之島に2021年度開館を目指す「大阪新美術館(仮称)」。大阪ゆかりの佐伯祐三やイタリア出身のモディリアーニら所蔵する約4900点の絵画作品を展示する計画だ。

市が2014年にまとめた整備方針によると、新美術館の規模は延べ約1万5000平方メートルで、このうち展示エリアが約3400平方メートル。カフェ、レストラン、ミュージアムショップなど付属サービス施設も設ける。概算工事費は130億円以内としている。

市は現在、設計コンペの2次審査を進めており、2018年度中に設計を終え、建設工事に着手したい考え。完成後は維持管理を含む運営業務だけを民間事業者に任せることを想定している。

新美術館はもともと、1989年の市制100周年に合わせ、1983年に構想が発表された。市は建設用地として約1万6000平方メートルを購入したものの、財政難で整備費280億円を工面できず、計画がストップしていた。

収蔵品は国内屈指の作品ばかりで、市民からの寄付だけでなく、市が公金をつぎ込んで集めた。構想から30年以上計画が進展せず、市民から「宝の持ち腐れ」と批判されたが、2016年度予算にようやく基本設計費が計上された。

大阪市大阪新美術館建設準備室は「大阪の歴史や文化を蓄積した中之島を拠点に、民間に知恵を最大限に活用し、国内トップクラスの美術館を目指したい」と意気込んでいる。

公共性確保へ自治体の工夫も必要

文科省によると、全国の文教施設の4分の1程度は、指定管理者制度を導入して外部に運営を委託している。しかし、指定期間はおおむね3〜5年。長期的な視野に立った運営が難しく、十分な成果を上げられていないところも少なくない。管理者選定の際、低価格競争に陥る課題もあった。

これに対し、コンセッション方式は数十年単位の長期的な事業計画を立てるのが一般的。期間に縛られず、自由な発想で事業を進められることから、指定管理者制度が抱える課題を克服できるという。

ただ、文教施設でコンセッション方式を導入した先例はない。山口県下関市は新博物館の展示や維持管理を民間事業者に任せようと計画したが、2003年に市議会の反対を受け、断念に追い込まれた。民間側に博物館運営のノウハウが乏しいことが主な反対理由だった。

民間にすべてを任せれば、収益ばかりが優先され、本来の公共性を失う可能性もある。NPO法人日本PFI・PPP協会(東京)の植田和男会長は「あくまで公共性を持つ本来業務は行政が担うべき。施設の維持管理や付帯事業を民間に任せるようにする必要がある」と指摘する。

大阪新美術館は大阪市が展覧会や美術品収集など中核業務を自ら進め、民間業者を指導監督する方針。文科省の検討会が打ち出す最終報告にも同様の方向を盛り込み、公共性が損なわれないようにする必要がありそうだ。

高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の記事一覧
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。