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判例をもとに検証

アイドル「異性交際禁止」契約条項は有効か? 有効なら従業員の「社内恋愛禁止」も可能か?

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(写真= ArtFamily / Shutterstock.com)

アイドルが芸能活動を行う場合、通常、芸能活動の契約を芸能プロダクションと締結する。この契約では、異性と交際することを禁止し、これが発覚した場合には契約解除事由とするとともに、損害賠償請求の対象となる旨を規定することが多いようだ。このような、いわゆる異性交際禁止条項は、法的にも有効であろうか。この論点に関して2015年9月18日、東京地方裁判所において有効性を認めた判決が出された。

またこの手の契約は一般のビジネスパーソンには適用されるものなのだろうか?

アイドルがファンとホテルで二人きりの写真が流出、損害賠償請求の裁判へ

『判例時報』(2310号 2016年12月21日号、126~132頁)に掲載された判決文によると、事案の概要は以下のとおりだ。

原告である芸能プロダクションは、アイドルグループを結成し、そのアイドルグループのメンバーの一人である被告との間で専属契約書を取り交わしていた。契約書の中では、アイドルについてファンとの親密な交流や交際などが発覚した場合、契約を解除して、芸能プロダクションはアイドルに損害の賠償を請求することができると規定されていた。

また専属契約締結の際には、芸能プロダクションからアイドルに対して「アーティスト規約事項」を渡し、読み合わせをしていた。同規約には、「私生活において、男友達と二人きりで遊ぶこと、写真を撮ること(プリクラ)を一切禁止致します。発覚した場合は即刻、芸能活動の中止及び解雇とします。CDリリースをしている場合、残っている商品を買い取って頂きます。」、「異性との交際は禁止致します。」と規定されていた。

ところがこのアイドルは、ファンと称する男性に誘われ、2人でラブホテルに入り、その男性はホテルの室内において、アイドルと2人でいる様子の写真を鏡越しに撮影した。芸能プロダクションは、ファンや他のメンバーを経由して、その写真データを入手した。そこで芸能プロダクションは、急遽アイドルグループを解散させることとした。

その結果、芸能プロダクションがアイドルとその父親に対し、アイドルグループの教育などに要した費用について損害の賠償を請求することとし、それが裁判にもつれ込んだのが本件裁判である。

アイドル側は債務不履行責任と不法行為責任を負うとしつつ40%の過失相殺

裁判所はまず、このアイドルが、専属契約や「アーティスト規約事項」において、異性やファンとの交際が禁じられていることの説明を受け、その内容を認識していた、という事実を認定した。そして異性やファンとの交際を禁止する条項の有効性を認めた上で、アイドルの行為がこの条項の違反にあたることは明らかであると判断した。

また契約責任とは別に、不法行為責任についても、一般に、異性とホテルに行った行為自体が直ちに違法な行為とならないと認めつつも、アイドルとして活動していた被告が、そのような行為を行い発覚するなどすれば、アイドルグループの活動に影響が生じ、芸能プロダクションに損害が生じうることは容易に認識可能であったと述べた。

その上で、このアイドルの行為が芸能プロダクションに対する不法行為を構成することは明らかであると判断している。

ただし芸能プロダクション側の主張していた損害額のうち、信用毀損に基づく損害賠償請求にはおよそ理由はないとし、Tシャツの作成費用、レコーディング費用、ダンスレッスン費用、衣装代など、芸能プロダクション側が実際に支出した費用についてのみ損害の発生を認めた。

また芸能プロダクションとして職業的にアイドルユニットを指導育成すべき立場にあったにもかかわらず、交際禁止条項をアイドルグループに遵守させようと十分な指導監督をしていたとは認められないことなど、芸能プロダクション側の落ち度を認め、芸能プロダクション側にも40%の責任があると損害賠償額を減らし(法律用語では「過失相殺」と呼ぶ)、結論としてアイドル側に約65万円の損害賠償責任を認めた。

異性交際禁止条項の必要性を認めた

この判決は、アイドルの異性交際を禁止する契約条項の効力について、アイドル側がかかる条項の存在を認識していたことや、条項が有名無実化していたわけではなかったことを挙げ、結論としてその有効性を認めた。

またアイドルの行為と損害との因果関係を認めるくだりの中で、「女性アイドルグループである以上、メンバーが男性ファンらから支持を獲得し、チケットやグッズ等を多く購入してもらうためには、メンバーが異性との交際を行わないことや、これを担保するためにメンバーに対し交際禁止条項を課すことが必要であったとの事実が認められる」と述べ、異性交際禁止条項の必要性も認めた。

このような本判決の認定には、異論も多いところであろう。異性と交際したいという感情は、人間として自然に生まれる恋愛感情であり、異性交際禁止条項は人権侵害の契約条項であり、公序良俗に反し無効だとする考え方もある。また法的拘束力までは認められない条項であるとする考え方もある。このような条項に違反しても法的な解除事由や損害賠償事由とはならないのであり、道義的・精神的に意味がある条項にすぎない(法律用語では「訓示規定」)とする考え方である。

この判決はあくまでも地方裁判所レベルの判例にすぎない。アイドルの異性交際を禁止する契約条項が今後も常に有効と認められるわけではない。とはいえ、議論に重要な一石を投じた裁判例には間違いなかろう。

「社内恋愛禁止」に適用できるのか?

また本裁判例で示された裁判官の考え方は、アイドルに限らず、一般のビジネスパーソンの雇用契約にも適用できるかもしれない。

とはいえ、さすがに独身者である一般のビジネスパーソンの恋愛を会社が禁止することは、禁止の対象を社内恋愛や取引先関係者との恋愛に限定したとしても、ビジネスモデルとして恋愛禁止が必要なビジネスはなかなか考えられず、認められないであろう。

もちろん、社内恋愛をしようとした者によるセクシャル・ハラスメントの危険や、取引先関係者との恋愛に伴う企業秘密の漏洩など、恋愛に派生して何らかの問題が発生する可能性はある。

しかしセクシャル・ハラスメントや企業秘密漏洩などが問題なのであって、恋愛自体が問題なのではない。派生する問題を予防するために恋愛自体を禁止するのは行き過ぎとして、異性交際禁止条項は無効とされたり、法的拘束力のない訓示規定と解釈されたりするだろう。

もっとも、例えば、雇用契約において社内や取引先関係者との不倫禁止規定を設けることについては、少なくとも自らの配偶者や不倫相手の配偶者との関係では違法な行為なのであるから、会社に対する関係でも、会社の業務の性質上、不倫禁止が必要と言え、かつ、不倫関係の発覚により会社の業務に影響が生じ会社に損害が生じうることが被用者からも容易に認識可能であったと言えるようなときには有効と認められる可能性があるかもしれない。(星川鳥之介、弁護士資格、CFP(R)資格を保有)

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