定年で退職する会社員にとって退職金は、毎月の給与やボーナスよりもはるかに大きな現金収入であり、退職後の生活を支える重要な資金の一つである。しかし給与などと同じく、退職金に対しても所得税や住民税はかかる。したがって所得税や住民税の額がどのぐらいか、ということは、退職者にとって極めて重要な問題である。一方、退職金には、給与やボーナスには適用されない、所得税や住民税の負担を軽減する税制上の制度がある上、その他の税制上の制度も利用すれば、さらにその負担を抑えることができる。今回はそのような制度を利用するための秘訣をご紹介する。

目次

  1. 退職金にかかる税金とは
  2. 退職所得の受給に関する申告書とは
  3. 住民税・所得税の計算方法
  4. 確定申告でも所得税を節税できる
  5. 老後をより豊かに

退職金にかかる税金とは

退職金には給与と同じく所得税が課されるが、その課税方法は「分離課税」方式である。所得税の課税方法には総合課税と分離課税があり、それぞれ特徴が異なる。総合課税の場合、複数の所得を合算し、その合計額に応じて税率が決まるが、所得税は、所得額が高いほど税率が高いという累進税率が採用されている。そのため、総合課税方式により退職金に課税すると、他の所得と合算して税率が決まるため税率が高くなるが、分離課税であれば、他の所得と合算されず退職金の額のみに応じて税率が決まるため、その分、税率が低く抑えられる。

また、所得税の徴収は給与と同じく源泉徴収によりなされる。会社が支払うべき税額を計算し、退職金を支払う際にその額を差し引き、これを税務署に納めている。 この他、退職者が居住する都道府県、市町村に対して住民税を納める必要がある。これも、先ほどと同じく、会社がその額を差し引いて納めている。 会社に在籍中に社員が死亡した場合、退職金に課される税金は異なる。この場合、受け取るのは社員の家族であるため、所得税ではなく相続税が課される。

退職所得の受給に関する申告書とは

退職所得の受給に関する申告書とは、退職者が会社に対して提出する書類である。退職金に対する所得税は、会社が退職金を退職者に支払うときに源泉徴収して税務署に支払うため、会社が所得税額を計算する。提出先が税務署ではなく会社となっていること、退職金が支払われる前までに提出する必要があるのは、そのためである。記載すべき事項は所得税法で定められており、国税庁ホームページに様式が掲載されている。 退職所得の受給に関する申告書を退職者が会社に対して提出する法律上の義務はないが、これを提出した場合としなかった場合とでは、所得税の計算方法が異なる。提出しなかった場合は、退職金の支給額に対して20.42%の所得税(復興特別所得税を含む)が課される。一方、提出した場合は、支給額全額にではなく、支給額から一定額が控除されるなどした後の額(退職所得)に対して、その額に応じた税率により所得税が課されており、退職金に対する所得税は優遇されるため、提出したほうが有利だと言える。

住民税・所得税の計算方法

所得税の額は退職所得に所得税率を掛けた額であり、退職所得の受給に関する申告書の提出を前提とする。退職所得の計算方法は、まず退職金の支給額から一定額を控除する。 控除額は、会社での勤続年数が20年以下の場合(1年未満は1年に切り上げる。)は勤続年数×20万円、勤続年数が20年超の場合は(勤続年数20)×70万円+800万円である。いずれの場合も、退職の直接の原因が障害者となったことであれば、控除額は100万円増える。次に、退職金の支給額からこの控除額を控除した後の額を2分の1にする。これが退職所得の額である。

所得税率は退職所得の額に応じ、 195万円以下は5%、195万円超330万円以下は10%、330万円超695万円以下は20%、695万円超900万円以下は23%、900万円超1800万円以下は33%、1800万円超4000万円以下は40%、4000万円超は45%である(復興特別所得税が課されている間は、これらの率の1.021倍となる)。 住民税は、退職所得の額に一律10%を掛けた額となる。

確定申告でも所得税を節税できる

確定申告により退職者が所得税を節約できる可能性は2通りあり、1つ目は、退職所得の受給に関する申告書を会社に提出しないまま退職金の支払いを受けた場合である。この退職者は申告書を提出した場合に比べて多くの所得税を支払っている可能性があるため、税務署に確定申告すれば、一度支払った所得税が一部戻る可能性がある。申告書を会社に提出した場合であっても可能性はある。例えば3月に退職したため、退職金を受け取った年の所得が少ない場合である。給与所得に対する所得税は、基礎控除、配偶者控除、社会保険料控除、医療費控除などを行った後の所得金額に所得税率を掛けて計算する。この控除を所得控除という。通常は、その年の給与所得から控除すれば足りるが、退職金を受け取った年は所得が少ないため、所得控除の額が給与所得の額より大きくなることがあり、控除しきれない分は、退職所得から控除することになる。控除により退職所得が減れば、退職金に対する所得税も減るので、支払った所得税が戻ることになる。特に、退職後も社会保険を任意継続し社会保険料を負担している場合、10万円を超える医療費を支出した場合は、戻る可能性がある。

老後をより豊かに

退職金は、退職者の長年の会社に対する功労に対して支払われるお金であり、人生において会社員が手に入れることのできる数少ないまとまったお金である。当然、国民として所得税、住民税の納税義務を果たさなければいけないが、その額を軽減できる制度があるのにそれを利用しない手はない。多くの現金を確保して退職後の長い人生をより豊かにするために、今回ご紹介した秘訣を上手に利用することが重要である。