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人口動態や労働供給の観点から

完全雇用に近づく米労働市場-トランプ大統領が掲げる25百万人雇用増加は可能か。

トランプ大統領,25百万人雇用増加,米労働市場
(写真=Thinkstock/Getty Images)

要旨

米国の労働市場は、08年の金融危機で大幅に雇用が減少した後、10年以降は雇用増加が続いており、17年1月まで史上最長となる76ヵ月連続増加を記録している。失業率も5%を割る水準まで低下しており、議会予算局(CBO)が試算する自然失業率や、FRBの長期目標水準に達している。さらに、通常の失業率に比べより広範な労働需給を反映する広義の失業率も顕著に低下しており、雇用環境の改善を伴う労働需給のタイト化を示している。

今後の労働市場の改善余地に対する評価には幅があるものの、労働市場の回復が続く中で完全雇用に近づいているとの評価では概ね一致している。実際、熟練技術者など一部業種では人材確保が困難となっている。

1月に就任したトランプ大統領は、「米国第一主義」を掲げ、今後10年間で25百万人の雇用創出を行うとしている。これは、80年代や90年代の増加ペースをも上回るペースである。本稿では、足元の労働市場の状況を確認した後、人口動態や労働供給の観点から、トランプ大統領が掲げる25百万人の雇用創出が可能か検証している。

結論から言えば、25百万人の雇用創出達成は困難である。トランプ大統領の雇用増加目標は高齢化が進む米国ではその実現は非常に困難である。仮に、25百万人の増加目標に拘るなら、高齢層の労働参加率を大幅に引上げるか、移民対策の強化によって移民流入の減少が予想されるトランプ氏の移民政策の転換が必要となろう。

はじめに

米国の労働市場は、08年の金融危機で大幅に雇用が減少した後、10年以降は雇用増加が続いており、17年1月まで史上最長となる76ヵ月連続増加を記録している。失業率も5%を割る水準まで低下しており、議会予算局(CBO)が試算する自然失業率や、FRBの長期目標水準に達している。さらに、通常の失業率に比べより広範な労働需給を反映する広義の失業率も顕著に低下しており、雇用環境の改善を伴う労働需給のタイト化を示している。

一方、順調な雇用増加が続く中でも、生産年齢人口(16歳以上人口)に占める労働力人口(就業者と失業者の合計)の割合を示す労働参加率は、依然として金融危機前の水準を下回っており、改善の余地を残している。

もっとも、今後の改善余地に対する評価には幅があるものの、労働市場の回復が続く中で完全雇用に近づいているとの評価では概ね一致している。実際、熟練技術者など一部業種では人材確保が困難となっている。

1月に就任したトランプ大統領は、「米国第一主義」を掲げ、今後10年間で25百万人の雇用創出を行うとしている。これは、80年代や90年代の増加ペースをも上回るペースである。本稿では、足元の労働市場の状況を確認した後、人口動態や労働供給の観点から、トランプ大統領が掲げる25百万人の雇用創出が可能か検証したい。

米国労働市場の状況

◆史上最長となる雇用増加が持続

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米雇用者数は、08年の金融危機後、大幅に減少したものの、10年10月以降、史上最長となる76ヶ月連続で増加している(図表1)。

また、雇用増加ペースも14年の雇用増加数が299.8万人と99年(318.0万人)以来のペースとなったほか、15年(271.3万人)、16年(224.2万人)ともに200万人を超える順調なペースを維持している。

一方、失業率も10年の10%近辺から低下基調が持続しており、17年1月は4.8%と5%を割れる水準である。これは、議会予算局(CBO)が試算する自然失業率(*1)(4.7%)に近いほか、FRBが長期目標水準(4.8%)に一致している。

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(*1)長期的にみて、インフレ率に関係なく、一定の水準で存在する失業率、構造的失業率。
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◆広義の失業率:雇用の質を伴った改善が持続

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労働統計局(BLS)は、前述の通常の失業率(U-3)に加え、より広範な労働需給の実態を反映する広義の失業率(U-6)を公表している。U-6では、本来はフルタイムで働きたいが、事業環境の悪さや、パートタイムの仕事しか見つからないなどの理由により、パートタイムで働いている「経済的理由によるパートタイム労働者」や、1年前までは職探しをしていたが現在は職探しを諦めた人数「周辺労働力人口」を加味している。このような人たちは、U-3では失業者にカウントされないものの、潜在的な失業者と考えられており、これらを加味することで労働需給の実態をより正確に補足することが期待されている。

実際、U-6の推移をみると、金融危機後に雇用環境の悪化を反映して経済的理由によるパートタイム労働者や、周辺労働力人口が大きく増加したことが分かる(図表2)。この結果、U-6は一時17%を超える水準まで上昇したほか、U-3との乖離幅も金融危機前の4%台前半から金融危機後には最大7%台前半まで拡大した。

金融危機以降、労働市場が回復する中で、U-3の低下に比べU-6の低下が鈍かったことから、暫く、労働市場の質の改善が遅れていると指摘されていた。しかし、足元では経済的理由によるパートタイム労働者がピーク時の920万人超から580万人程度まで減少したほか、周辺労働力人口もピークの280万人超から170万人弱まで減少するなど、漸く金融危機前の水準まで低下してきた。このため、より広範な実態を反映する広義の失業率でみても、労働需給は相当程度改善していると判断できる。

◆労働参加率:高齢化を加味しても改善の余地

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一方、様々な労働指標が金融危機前の水準まで改善する中で、労働参加率は金融危機前の水準を下回っている。労働参加率は、金融危機前に66%程度であったものが、雇用が順調に増加した動きとは対照的に15年9月の62.4%まで低下基調が持続した(図表3)。その後は、底入れの動きがみられるものの、17年1月でも62.9%と改善幅は限定的となっている。

もっとも、労働参加率は、雇用環境だけでなく、高齢化などの人口動態の影響を受けるため、注意が必要だ。働き盛りである25-54歳(プライムエイジ)の労働参加率が8割超である一方、リタイアする人が増える55歳以上の労働参加率は、4割程度とプライムエイジの半分以下に留まるなど、年齢層による差が非常に大きい。したがって、高齢者の人口割合が高くなると、全体の労働参加率が構造的に低下する。

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そこで、人口動態の影響を除いてみるために、プライムエイジの労働参加率に注目すると足元は81.5%と、金融危機前の83.0%に比べて依然として1.5%程度低い水準に留まっていることが分かる(図表4)。労働参加率は人口動態の影響を除いても、金融危機前との比較で改善の余地があると言える。ちなみにプライムエイジの人口は足元で1億2,800万人程度とみられているため、労働参加率が金融危機前の水準に戻るためには追加的に190万人程度雇用が増加する必要がある。

トランプ政権が掲げる今後10年間で25百万人の雇用創出は可能か

◆10年間で25百万人(年間250万人)は、80年以降最も高い増加ペース

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80年以降の年間雇用増加ペースをみると、年度によっては250万人を上回る年が散見されるものの、80年代から00年代にかけて10年間の平均をみると、いずれの期間でも250万人を下回っていることが分かる(図表5)。

米国では人口が増加していることから、雇用者数も以前に比べれば増加ペースが加速することが見込まれるが、高齢化に伴い、人口増加ほど労働力人口の増加が期待できないことを考慮すると、相当高いハードルであると言える。

◆失業者・非労働力人口:失業者数は僅か800万人、非労働力人口の半分以上は高齢者

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トランプ氏は、選挙後はじめて実施した記者会見において、米国には職を希望しているのに職に就けていない人が96百万人いると説明した。これは明らかにミスリードだ。家計調査によると、足元で職探しをしているが、職に就けていない失業者数は17年1月時点で800万人強に留まっている(図表6)。

トランプ氏が言う96百万人は、現在職探しをしていない非労働力人口であり、17年1月では95百万人強である。このうち、職を希望している人数は僅か590万人に過ぎない。残りの89百万人は、そもそも職を希望していない。このため、仮に590万人が職探しを再開して労働市場に再参入したとしても足元の失業者と合わせて1,390万人にしかならない。

また、非労働力人口のうち、職を希望していない人数を年齢別にみると、55歳以上のシェアが58.8%と大きいことが分かる。これは高齢になりリタイアした人数が相当数含まれていると想定でき、雇用環境が改善したところで職探しを再開するか疑問だ。一方、16歳から54歳のプライムエイジで職を希望しない人数は合計37百万人ほど存在しており、雇用環境の好転によっては一部職を希望する人がでる可能性はあるが、それにしてもトランプ氏の主張する96百万人とは大幅に乖離している。

◆人口増加、高齢化の進展:今後10年間で16-54歳人口の増加は僅か400万人に留まる。

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センサス局によれば、米国の人口は16年が3億2,400万人であり、10年後には3億4,900万人へ2,500万人弱増加すると推計されている(図表7)。人口増加は、労働力人口の増加に追い風である。なお、人口推計では、海外からの移民については、主要地域毎に過去の移民流入状況と今後の人口想定から移民増加数を推計しているようだ(*2)。

さて、人口増加の年齢別内訳をみると、55歳以上で1,500百万弱増加し、人口に占めるシェアが、16年の28.0%から26年には30.9%まで増加すると見込まれている。

一方、労働力人口の中核であるプライムエイジの人口は、400万人強の増加に留まっており、人口増加に伴う労働力人口の増加は限定的である。米国でプライムエイジの人口を増加させるためには、海外から積極的に移民を受け入れる必要があり、トランプ大統領が移民流入を抑制する場合には、労働力人口の増加が雇用目標達成のネックになる可能性が高い。

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(*2)Methodology, Assumptions, and Inputs for the 2014 National Projections(センサス局、14年12月)。2060年までに海外からの移民は190万人増加、そのうちメキシコからは50万人の増加を想定。
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◆労働参加率試算:目標達成には、生産年齢人口増加か、高齢層労働参加率の大幅な引き上げが必要

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最後に、25百万人雇用が増加した場合に労働参加率がどのように変化するか試算する。センサス局の人口推計を用いて試算すると、10年後に雇用者が25百万人増加するには、労働力人口が16年末の1億6,000万人弱から26年に1億8,500万人弱まで増加する必要がある。この結果、労働参加率は16年末の62.7%から10年後には66.2%に増加すると推計される(図表8)。これは08年1月の水準であり、この結果だけをみれば、金融危機前の水準に戻るだけなので、あまり、非現実的な結果にはみえない。

しかしながら、労働参加率は高齢化により構造的に低下するため、金融危機前の年齢別労働参加率が続くと仮定して、人口動態変化だけを加味した労働参加率を推計すると、10年後には62.8%まで低下することには注意が必要だ(図表9)。

このため、年齢別の労働参加率が変化しない想定では、労働力人口1億8,500万人を達成するためには、生産年齢人口がセンサス局の人口推計より1,500万人多く増加する必要がある。一方、生産年齢人口がセンサス局の人口推計2億7,900万人から変化しないとすると、55歳以上の労働参加率を足元の4割弱から5割弱まで大幅に引上げる必要があることを意味している。

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結論

これまでみたように、米労働市場はトランプ大統領が示す悲観的な状況とは対照的に長期に亘る回復局面にあり、完全雇用が視野に入る状況である。トランプ大統領の雇用増加目標は80年以降の雇用増加ペースと比べても高いほか、高齢化が進む米国ではその実現は非常に困難である。仮に、25百万人の増加目標に拘るなら、高齢層の労働参加率を大幅に引上げるか、移民対策の強化によって移民流入の減少が予想されるトランプ氏の移民政策の転換が必要となろう。

窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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