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小方功代表取締役社長(写真=濱田 優/FinTech online編集部)

ラクーン <3031> は現在のフィンテックスタートアップ企業の“先輩格”と言える存在だ。昨年、東証一部上場を果たし、日本のBtoB市場に斬新なネットサービスを提供している。

1970年代から日本の幾多のベンチャー企業を見てきた筆者には、そのビジネスモデルもさることながら、同社の小方、石井という両経営者の苦闘の物語のほうが、興味深い。知らざれるストーリーを読者と共有しよう。(経済ジャーナリスト 丸山隆平)

小方功(おがた・いさお) 1963年北海道札幌市生まれ。北海道大工学部卒業後、パシフィックコンサルタンツ入社。92年退社して中国へ留学。93年帰国して事業を起こす。『華僑 大資産家の成功法則 お金がなくても夢をかなえられる8つの教え』(実業之日本社)などの著書がある。

3年勤めた大手企業を辞め、華僑の下で商売を学ぶ

「自分に嘘をつきたくない」――。都市計画のエンジニアだったラクーンの小方功代表取締役社長は29歳の時、3年勤めた大手企業に辞表を出した。1992年のことだ。「人生一回しかない。持って生まれた可能性を試してみたい」。周囲を見渡すと理想と思えるビジネスは何もない。「どうやら自分で創らないと」と思い、一度日本を離れることにする。「狭い日本だけで考えるのは限界がある」。そして中国に留学する。

これが小方氏の転機となる。古くから小方氏を知っていた友人たちからは「中国から帰って来た時は人が完全に変わっていた」と言われたという。

留学先の選択について小方氏は「アメリカ帰りの人たちはどうも好きになれなかった」と振り返る。

「ビジネスで重要なのはゼロから考える能力。だがアメリカ帰りの人は『これからこうなる』と自慢げに説明するような、思考が止まったような人が多いような気がした。すべての人がそうとは言いませんが、本質をとらえず、米国の流行の表面だけを真似ることが多いように思えた」。

小方氏が中国へ行った92年はウーロン茶の売上がコカ・コーラを抜いた年。「シリコンバレー以外にも夢が眠っているのでは」と北京・上海とビジネスのネタを探す小方氏は、偶然、ある華僑に出会う。

「人の出会いと人を大切にしない人、人の優先順位を入れ替えられない人は成功しないと信じている」という小方氏は、日本から投資家が来ると、中国側の通訳兼案内役として1年間その華僑の下でみっちりと交渉の仕方や華僑のものの考え方を学んだ。

何度もトライして気がついたら「成功していますね」と誰かに言われる

中国から戻り、1993年、東京・狛江のアパートの一室で起業した小方氏だが、「食べることもままならないような、貧乏だったので現実逃避したくなったこともあった」という。

事業は、販路開拓で流通業者が直面する悩みを自ら体験し、1998年に過剰在庫を取り扱うBtoBサイト「オンライン激安問屋」をインターネット上に開設する。

小方氏が手ごたえを得たのは2000年10月、日経新聞主催の「日経インターネットアワード2000」のビジネス部門で受賞した時だ。

会議室に飾られた日経インターネットアワードの賞状(写真=濱田 優/FinTech online編集部)
会議室に飾られた日経インターネットアワードの賞状(写真=濱田 優/FinTech online編集部)

小方氏は「ここからネットと流通が私のライフワークになった」と振り返るが、そこまでの7年間は試行錯誤の連続だった。

「これも今となっては私の持論だが」と前置きし、「成功者は常に何かの専門家である。アイデア一つで、あるいは量的な努力だけで成功すると信じている人がいるが、この2つが欠かせない。アイデアだけ、努力だけで本当に成功した人を見たことがない。テレビの物語では見ますけれどね」と小方氏は語る。

「実際には仮説を立てられない人は問題の中に埋もれ、斜陽産業の中に沈んでしまう。何度も何度もトライして、気がついたら『成功していますね』と誰かに言われる、そんな感じだと思いますよ。『こう変わるべきだ』と仮説を立てる人は流れを変えることができる人だ」。