一般車が乗り入れできない専用道や専用レーンにバスを走らせるバス高速輸送システム(BRT、Bus Rapid Transit)に全国の地方自治体の注目が集まっている。これまで東日本大震災の被災地や鉄道の廃線跡で導入されてきたが、都市部でも兵庫県神戸市が今夏、導入に向けた実証実験に入るほか、岐阜県岐阜市や新潟県新潟市で社会実験が進められた。
BRTは地下鉄や次世代型路面電車(LRT)より安上がりで、通常のバスのように交通渋滞に巻き込まれることがなく、連節バスを使用すれば輸送力向上も見込める。今後、高齢化社会を迎えた新時代の都市交通として期待が高まりそうだ。
世界186都市で基幹交通として導入
BRTは連節バスで専用レーンを走り、大量輸送する交通システム。国土交通省は連節バス、公共車両優先システム、バス専用道、バスレーンを組み合わせ、輸送力と高速性の両方を兼ね備えたものと位置づけている。
世界で初めてBRTが登場したのは、南米ブラジルのクリチバで、1974年に統合輸送ネットワークとして開業した。幹線道路にバス専用レーンを設け、3両連結の連節バスを1、2分間隔で運行している。
乗り場は専用レーン内に設けられ、そこで運賃を支払うため、乗降時間が大幅に短縮される。乗り継ぎは原則として無料。乗り場に公共施設やショッピングモールを併設した場所もあり、市内の基幹交通となっている。
このシステムを参考に世界各地で新しい公共交通網として導入された。米シンクタンクWRIのまとめでは、2014年10月時点で運行都市数が世界186都市に達する。路線の総延長は4757キロ。1日当たりの推定乗降客数は3170万人に及ぶ。
国内では2007年に廃線となった茨城県石岡市の鹿島鉄道跡などが、バス専用道として整備され、代替バスの運行が始まったほか、東日本大震災被災地の岩手県や宮城県では、JR東日本が被害を受けた線路敷を専用道に利用し、2012年からバスを走らせている。
しかし、欧米で地下鉄やLRTに匹敵する交通機関と位置づけられているのに対し、国内ではまだ鉄道代替バスの域を出ていないのが実情だ。
神戸や岐阜などで相次ぐ導入に向けた社会実験
神戸市の実証実験は7月に実施する計画。神戸開港150年目の記念事業として開かれる「海フェスタ」などのイベント時に、中心部の三宮から会場のメリケンパークなどへ約120人乗りの連節バスを走らせる。
市は2017年度一般会計当初予算案に実証実験の事業費を盛り込み、実施に向けて兵庫県警などと協議に入るほか、兵庫県三田市で連節バスを運行している神姫バス〈9083〉からバスを借りる交渉も進める。
BRTの導入は久元喜造市長の選挙公約。市内は三宮、元町、新開地などの中心部をJR、私鉄、地下鉄、ウォーターフロントをポートライナーなどの鉄道路線が走っているが、混雑が深刻化している。
久元市長はLRT導入も選挙公約に掲げていたが、より実現への可能性が高いBRTから先に実証実験を進めたい意向。神戸市公共交通課は「実証実験の結果も踏まえ、導入の可能性をよく検討したい」と述べた。
岐阜市は2016年11月、金宝町交差点から若宮町交差点までの長良川通り約500メートルの区間で、一般車両の乗り入れを規制し、公共交通だけを運行させるトランジットモール交通社会実験をした。
市が連節バスを運行し、区間内5カ所にバス停を設けたところ、地元の商店街が沿線70店と仮設40店がイベント販売を展開したこともあり、通常の4倍ほどの人手があった。
市内は長く路面電車が公共交通を支えていたが、2005年で廃止され、バスが基幹交通となっている。市内2路線に連節バスが導入済みで、岐阜市交通総合政策課は「今後も実験を重ね、本格運用につなげたい」としている。
国内でも都市交通としての模索がようやく本格化
新潟市でも2016年11月、BRTの専用レーンを試験的に設け、乗降客の利便性を検証する社会実験があった。中央区の東大通交差点と流作場五差路間が実験場所で、途中の道路中央部に長さ38メートル、幅2メートルの島型バス停を設置した。
実験中、車いすの利用者や視覚障害者らに利用してもらい、さまざまな意見を寄せてもらった。市民からの意見は専用レーン設置の際に反映させる考えだ。
市は中央区の新潟駅万代口から西区のイオン新潟青山店付近までを基幹路線としてBRTを導入し、そこから郊外へバス路線を伸ばして市内の公共交通網を再編する計画だった。しかし、車線の減少で交通渋滞が起きかねないなどとして、2015年から専用レーンを設けずに暫定運行している。
開業から10カ月間のバス利用者は、市の集計で開業前の同じ期間に比べて14万人(0.9%)増の1666万人に達した。うち、BRT区間は300万人前後が利用している。新潟市新交通推進課は「社会実験でしっかりと効果や課題を探ったうえ、専用レーン導入を進めたい」と語った。
このほか、東京都は新橋-豊洲間、大阪府大阪市は市営地下鉄今里筋線の延伸計画区間、愛知県名古屋市は市中心部で事業計画が浮上している。専用レーンを設置することによる交通渋滞対策など課題は残るが、国内でもようやく都市部の基幹交通としての模索が本格化してきた。
高田泰 政治ジャーナリスト この筆者の
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関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。