2016年、アジアFinTechスタートアップへのVC投資があと1億ドル(約113億6900万円)で北米と肩を並べるところまで増えたことが分かった。これはCBInsightsとPwC(プライスウォーターハウスクーパース)による共同レポート「Money Tree Report」から判明したもの。世界的にFinTechベンチャー・キャピタル(VC)が落ちこんだにも関わらず、アジアは堅調だったようだ。

失速するシリコンバレー 8期連続減少中の北米VC投資

2016年通期および第4四半期のFinTech VC投資に焦点を当てた「Money Tree Report」には、北米、欧州、アジア各地域の特色が色濃く反映されている。

北米VC投資は2015年から著しく減少。総額586億ドル(約6兆6540億円/20%減)、取引件数4520件(16%減)。8期連続で減少傾向にあり、第4四半期の取引件数は982件と2011年以来初めて1000件を下回った。

中でも北米FinTechを先導していたシリコンバレーへの投資が第3四半期以降急激に落ちこみ、第4四半期には投資総額が37%減、取引件数は22%減となった。

北米VC投資の失速は、シリコンバレーを筆頭とするテクノロジーハブに陰りが見えたことが主要原因とされている。シリコンバレー同様、マサチューセッツ州を含むニューイングランドの投資総額は41%減少。

ニューヨークは投資総額が12%増えたものの取引件数は12%減。コワーキングスペース「WeWork」やニュースコミュニティー・サイト「バズフィード」などによる2億ドル(約227億1000万円)級の大型投資が、投資総額を後押ししたものと思われる。

対照的にワシントンD.Cではサテライト・ブロードバンド会社、OneWebが12億ドル(約1362億6000万円)の超大型資金調達に成功し、総体的に132%上昇。北西部も総額は3%減となったものの、取引件数は15%増伸びている。

VC投資分野ではインターネット(26%減)や医療(43%減)への関心が薄れ、モバイル・テレコム(19%)への期待が高まっているようだ。

中国スタートアップが加熱 北米追い上げの旗頭

代わって勢いを維持したのはアジア。北米同様、第4四半期には投資総額が25%の減少を見せたものの、相次ぐ大型投資に救われる結果となった。特にスタートアップへの投資が勢いづいており、2016年は54億ドル(約6131億7000万円)が流入。55億(約 6245億2500万円)を獲得した北米スタートアップと微差となった。

しかし両地域の取引件数を比較してみると、米スタートアップVC投資が422件であったのに対し、アジアは165件と極端に少ないことがわかる。これはアジア地域に大型投資が多い事実を意味する。アジアFinTech件数が占める割合は全体の20%だが、総額的には43%を占めていることになる。

アジアFinTechの中で最も投資家を魅了しているのは中国のスタートアップだ。12億円(約1362億6000万円)の資金を獲得したP2PレンダーLufax、オンラインモール「京東商城(JD.com)」の金融部門、10億ドル(約1135億5000万円)を調達したJD Financeなど、2016年の大型スタートアップVC投資トップ10のうち9件までが中国スタートアップである。

VC投資分野も北米同様、インターネット関連の資金が43%減ったのとは対照的に、モバイルソフトウェアへの投資は178%増加。中国の画像処理スタートアップ、SenseTimeが1億2000万ドル(約136億2600万円)を資金調達ラウンドBで獲得した。

復活の兆しが見える欧州 世界的にユニコーンが下火?

第4四半期に唯一上昇を見せたのは欧州だ。投資総額22%増の30億ドル(約3407億7000万円)を記録。取引件数も3期連続で上昇し498件に達した。

欧州で最も跳躍を遂げた分野は、アジア、北米では下降気味の医療スタートアップという点が興味深い。欧州では113%増で投資総額は7億ドル(約 794億8500万円)に。

Brexitの影響が懸念される英国だが、2016年のFinTech VC投資が34%落ちこんでいることが、英非営利FinTech機関、Innovate Financeから報告されている。今後の行方はEU離脱交渉にともなうビジネス環境の変化次第といったところだろうか。

国際的な規模ではかつてFinTech市場を風靡したユニコーンの存在が、第3四半期をピークに後退。IPOユニコーン不足も2016年のVC投資を鈍らせた要因のひとつだと見られている。今後投資意欲をかき立てるような大型ユニコーンの登場が期待される。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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