ニトリ,アパレル,新規参入
(画像=Webサイトより)

家具の生産・販売で有名なニトリホールディングス がアパレル業界に参入するという旨の表明を行い、注目されている。その背景と今後について考察する。

参入理由は「営業利益積み増し」による多角戦略か

以前、筆者が執筆・掲載した「ニトリはなぜ29期連続で営業利益が出せたのか」では、ニトリは独自の生産体制により、高い収益率と利益の留保を行っているという旨の記事を記載した(参照: /archives/102272

2016年2月期のニトリホールディングス決算書を参照してみると、売り上げは約4581億円、営業利益は約730億円という水準を保っている。

それに対し、同業他社の大塚家具は売り上げだけでも580億円とはるかに規模が小さい。他にも特に目立ったライバルはいなさそうだ。

こういった現状の中で、潤滑なキャッシュを活かし、業務範囲を増やすことでさらなる収益力を追及し、今後さらに影響力を増そうと考えているのが今回の動きの理由の一つだ。

営業利益を積み増すだけではなく、適切に事業投資を行うことでさらなる収益を追求していくというスタンスが今回の発表からも見て取れる。

課題は「独自ブランド」の企画・作成

報道によると、ニトリホールディングスは独自ブランドの展開において、「M&Aを通じて、100~200店規模の衣料品チェーンを買収。その後、商品を入れ替えることを想定している」という発表を行っている。

ここで課題となるのは「取り扱う商品のブランド構築」だ。

ニトリの家具におけるビジネスモデルを参照すると、「既存品を仕入れて販売するだけ」といったいわゆる「販売店ビジネス」だけで満足するとは考えられず、この買収した企業をベースにして独自のブランド価値創造に着手するであろうことは容易に想定できる。そういった場合、問題となるのは「他との差別化を行ったうえで、ブランドイメージにあった商品を企画できるか」というポイントだ。

ニトリホールディングスのビジネスモデルとしては以前、執筆した記事にも記載したように「生産を自社で行うことでコストを安くし、それを高品質・低価格」で販売するという戦略(SPA)をとっている。

アパレルにおいてもブランドイメージに合わせ、同戦略をとるという可能性は十分に考えられるが、そうなってくるとニトリホールディングスの前に立ちはだかるのは低価格アパレルの大手国内企業であるファーストリテイリング(ユニクロ)だ。

「低価格で手軽かつ品質の良いファッションを」という理念は同社とかぶることになり、苛烈な顧客争いが生じる可能性は非常に高い。収益・ビジネスモデルにおいてはニトリホールディングスが29期連続黒字という偉業を成し遂げているため客観的にみて評価は高いと思われるが、異業種に参入するニトリと、片や低価格アパレルの全線で鎬を削り続けたユニクロとでは、ユニクロ側が若干のリードをしているといえる。

もちろん、現時点でニトリホールディングスのアパレル事業における概要は明確化されておらず、強力なライバルがいるセグメントにそのまま突入するというリスクを冒さず、路線を変更する可能性も十分にありえる。

マーケットの反応と今後

一般的に、ニトリに限らずどんな企業も「本業とする事業以外への参入」はリスクが高く、事業の軸がぶれてしまうとして株式の売りを誘い、短期的には価格の下落を示すことが多い。もっとも、今回の場合そういった動きは起こっておらず、かなり例外的だ。

今回のニトリホールディングスがアパレル参入を表明したのは2月3日、ブルームバーグニュースにて掲載された。

だが2月3日のニトリホールディングス株価を参照してみると初値は1万2730円、調整後終値が1万2590円、翌週月曜日6日の初値も1万2620円と大きな変動は起こっておらず、株価の変動率も想定レンジの中で推移している。

これは「異業種への参入があるものの出資は積み増したキャッシュを利用するうえ、29年連続黒字という実績がある」とマーケットおよび参加者は判断しているということが数字に表れたものであると、筆者は分析している。

もっとも、マーケットの数値というのは近年の大統領選やイギリスのEU離脱国民投票にて示されたように、あくまで「事実」ではなく、市場関係者の「期待」で上下するものである。つまり株価が動かなかった(市場関係者は問題視していない)からといって、それがイコール「ニトリのアパレル参入に何の問題もない」というわけではない。

筆者の個人的な分析でいうなら、今回のアパレル参入という意決定は、あまりプラスでないように思われる。

アパレル業界でも低価格・良品質というジャンルにはユニクロやしまむらといった手ごわい競争相手がいるだけでなく、家具とはまた違った企画・経営センスが問われる。ノウハウがないまま独自に路線を追求せざるをえないニトリがこういった業種に飛び込むということは、金銭的な面だけでなく事業的リスクもかなり高く、この部分の研究開発および赤字により本業の家具ビジネスの利益を圧迫する可能性もある。

事業投資や運用に限らず、高い収益と勝率を上げ続けるには「自分の専門分野を熟知し、そのフィールドだけで戦い続ける」というのが重要なアクションであると考える。

「収益が積み増されているため、企業拡大できない」というのであれば、関係のない業種に手を伸ばすよりは自社株買いなどにより外部出資資本の圧縮を行うことで経営権利の比率を固めると同時に自社株買いによる株価上昇により、投資家に報いたほうがはるかに有益で、かつ簡単な戦略ではないかと思う。

いずれにせよ、ニトリの新たな挑戦はまだまだ始まったばかりで、具体的に形になったわけではない。

本年は「連続黒字30年度目」という区切りのよい節目でもある。今後の発表が注目される。(土居亮規 AFP、バタフライファイナンシャルパートナーズ)