ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)は2月24日、電子煙草市場を2倍に拡大する意向を明らかにした。

世界各国で広がる禁煙ブームの影響で、従来の煙草の売上は低迷。米国を除く国では、BATにとって電子煙草が従来の煙草に代わる最大の市場となっているという。同じく電子煙草の未来に30億ドル(約 336億2100万円)を投じたライバル、フィリップモリスとの激戦が繰り広げられそうだ。

禁煙キャンペーン地域で急成長中のオルタナ煙草市場

世界的な健康志向の高まりから年々禁煙者が増えているものの、疾病管理予防センター2015年の統計によると、世界の成人人口(18歳以上)の3割が喫煙者だ。

しかし先進国を中心に政府や医療機関による喫煙促進キャンペーンが拡大しており、特に欧米では公共の場や企業の「喫煙者締めだし」が常識範囲と見なされる域に達している。こうした禁煙環境も、オルタナ煙草市場を急激に飛躍させる大きな要因となった。

フィリップモリスは電子煙草を含む「オルタナ煙草」に、最も早く着目した煙草メーカーのひとつだ。過去数十年間にわたり巨額を投じて研究・開発を続けてきた。

その成果が実り、2014年にはスイス、イタリアなど世界9カ国でヒートスティック型煙草「アイコス(IQOS)」の販売を開始。2016年以降は日本市場にも進出を果たし一大ブームを巻き起こした。現在、世界20カ国に市場を拡大している。

RAI 買収、20カ国への販売拡大が目標

IQOS に対抗する商品としてBATが1億ドル(約112億700万円)を投じて開発したのは、同じくヒートスティック型煙草「iFuse」だ。2015年、ルーマニアでの販売を皮切りに、日本や英国を含む10カ国で発売している。

BATの発表によると、禁煙環境の整った英国では電子煙草産業が煙草市場の40%、ポーランドでは50%を独占するまでに成長。今後さらなる伸びが期待されていることから、目標販売国数を現在の2倍である20カ国に設定し、市場拡大に向け精力的に働きかけていく意向を示している。

BATは今年1月、米レイノルズ・アメリカン(RAI)を494億ドル(約5兆5362億円)で買収。株式の57.8%を取得した。市場拡大を狙える基盤作りに一役買うことは間違いない。

「次世代煙草の時代は幕を開けたばかり」と多大なる期待とともに、「より革命的で害の少ない」オルタナ煙草商品開発を目指している。次世代煙草産業でもフィリップモリスの強力なライバルであり続けると予想される。

従来型の煙草人気が根強い低中所得国 電子煙草の壁?

しかし両社が社運を賭けているといっても過言ではないオルタナ煙草商品の未来に、疑問を唱える声も聞こえてくる。

確かに従来の煙草の売上は年々勢いが衰えているものの、すべての国・地域で後退しているわけではない。先進国で喫煙者が減った半面、低中所得国では喫煙者が増えている。世界保健機関(WHO)の調査からは、世界の喫煙人口の8割以上が低中所得国民であることなども判明している。

つまりオルタナ煙草商品が広く流通しているのは比較的生活にゆとりのある地域に限られており、従来の煙草を完全に追い越すには数々の課題が横たわっていることになる。

その証拠にオルタナ煙草商品の最先端を独走するフィリップモリスでさえ、オルタナ煙草商品が2016年の収益を占める割合は7億3900万ドル(約 828億1973万円)。全体の1%にも満たなかった。対照的にBATによる従来の煙草は0.2%成長し、6650億ドル(約74兆5265億円)を記録。成長速度は緩やかだが、着実に伸びている。

常に煙草産業のトップの座を争い続けてきたフィリップモリスとBAT。次世代煙草に持ちこまれた一騎打の勝算はどちらにあるのだろう。現時点では多くの専門家がフィリップモリスの優位を確信しているようだが、勝負はまだ始まったばかりだ。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)