経常利益が大幅改善

財務省が3月1日に公表した法人企業統計によると、16年10-12月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比16.9%と2四半期連続の増加となり、7-9月期の同11.5%から伸びを高めた。非製造業が前年比12.5%(7-9月期:同24.5%)と2四半期連続で増加したことに加え、製造業が前年比25.4%(7-9月期:同▲12.2%)と6四半期ぶりの増加となった。

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経常利益は2四半期連続で二桁の伸びとなったが、7-9月期の経常利益は、純粋持株会社が子会社からの受取配当の急増という特殊要因で前年比858.9%となったことにより大きく押し上げられていた。純粋持株会社を除いた経常利益は7-9月期が前年比▲5.3%(非製造業は同▲1.4%)、10-12月期が同14.8%(非製造業は同9.0%)となる。10-12月期の経常利益は実態としては表面的な数字以上に急回復したとみることができる。

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製造業は世界経済の回復を背景とした輸出数量の持ち直し、円高一巡に伴う輸出価格の低下幅縮小から、売上高が減少(7-9月期:前年比▲3.4%→10-12月期:同▲0.1%)する中、売上高経常利益率が15年10-12月期の6.1%から7.6%へと大きく改善したことが経常利益を押し上げた。変動費の減少が続く中で売上高の減少幅が大きく縮小したため、変動費要因が利益率改善の主因となった。

非製造業は売上高が前年比2.8%(7-9月期:同▲0.7%)と5四半期ぶりの増加となったことに加え、売上高経常利益率が5.5%と15年10-12月期の5.1%から改善した。原油価格の上昇などに伴い変動費は前年比2.4%と7四半期ぶりに増加したが、売上高の伸びがそれを上回ったため、非製造業も変動費要因が利益率の改善要因となった。

経常利益(季節調整値)は過去最高水準に

経常利益の内訳を業種別に見ると、製造業では、はん用機械(前年比▲30.0%)は4四半期連続の減益となったが、情報通信機械(同123.2%)が前年から倍増したほか、鉄鋼(同35.5%)、生産用機械(同22.8%)、業務用機械(同18.1%)、電気機械(同16.9%)などが軒並み二桁増益となった。

非製造業では、情報通信(前年比▲3.3%)、電気(同▲25.9%)は減益となったが、サービス(前年比19.2%)が3四半期連続の増益と好調を維持したほか、インバウンド需要の持ち直しなどから卸売・小売が前年比24.1%と4四半期ぶりの増益となった。

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季節調整済の経常利益は前期比5.2%(7-9月期:同9.4%)と3四半期連続で増加した。非製造業は前期比0.1%(7-9月期:同9.4%)とほぼ横ばいだったが、製造業(7-9月期:前期比9.4%→10-12月期:同17.0%)の伸びが大きく加速した。

この結果、16年10-12月期の経常利益(季節調整値)は19.8兆円となり、過去最高だった15年4-6月期の19.3兆円を上回った。製造業はリーマン・ショック前のピーク時(07年4-6月期)の水準をやや下回っているが、非製造業は16年7-9月期に続き過去最高水準を更新した。

設備投資は製造業中心に持ち直し

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設備投資(ソフトウェアを含む)は前年比3.8%(7-9月期:同▲1.3%)と2四半期ぶりの増加となった。製造業(7-9月期:前年比▲1.4%→10-12月期:同7.4%)が2四半期ぶり、非製造業(7-9月期:前年比▲1.3%→10-12月期:同1.9%)が3四半期ぶりに増加した。

季節調整済の設備投資(ソフトウェアを除く)は前期比3.5%と3四半期ぶりに増加した。製造業(7-9月期:前期比▲3.6%→10-12月期:同7.4%)、非製造業(7-9月期:前期比2.1%→10-12月期:同1.3%)ともに増加した。

円高や新興国経済の減速に伴い16年前半の企業収益は大きく悪化したが、円高一巡や世界的な製造業サイクルの改善を受けて、年末にかけて急回復を見せた。設備投資は企業収益の悪化を反映し16年7-9月期には14四半期ぶりの減少となったが、10-12月期には早くも増加に転じた。

昨日(2/28)、内閣府から公表された「企業行動アンケート調査(16年度)」では、企業の今後3年間、5年間の実質成長率の見通し(いわゆる期待成長率)がそれぞれ1.1%、1.0%にとどまった(前年度はそれぞれ1.0%、1.1%)。このため、企業の設備投資意欲が大きく高まることは期待できないが、企業収益の増加にやや遅れる形で先行きの設備投資は持ち直しの動きが明確となることが予想される。

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16年10-12月期の労働分配率(当研究所による季節調整値)は59.2%と2四半期連続で低下した。労働分配率はリーマン・ショック後の09年初め頃をピークに低下傾向が続いた後、企業収益が悪化した15年後半から16年初めにかけていったん上昇したが、16年後半の企業収益の改善を反映し再び低下し始めた。足もとの労働分配率は90年代初頭のバブル期とほぼ同水準となっている。

人件費は14年7-9月期以降、前年比で増加を続けているが、企業収益は過去最高水準にあり、企業の賃上げ余力は十分にあるといえるだろう。

10-12月期・GDP2次速報は上方修正を予想

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本日の法人企業統計の結果等を受けて、3/8公表予定の16年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.4%(前期比年率1.6%)となり、1次速報の前期比0.2%(前期比年率1.0%)から上方修正されると予測する。

設備投資は前期比0.9%から同1.7%へと上方修正されるだろう。設備投資の需要側推計に用いられる法人企業統計の設備投資(ソフトウェアを除く)は前年比3.3%(7-9月期:同▲1.4%)と2四半期ぶりに増加した。一方、金融保険業の設備投資は前年比▲8.2%と減少幅が拡大した(7-9月期:同▲1.5%)。法人企業統計ではサンプル替えに伴う断層が生じるため、当研究所でこの影響を調整したところ、設備投資の伸びは前年比で3%台と公表値とほぼ同じ伸びとなった。GDP・1次速報の設備投資は名目・前年比0.9%となっており、本日の法人企業統計の結果は設備投資の上方修正要因と考えられる。

民間在庫変動は1次速報で仮置きとなっていた原材料在庫、仕掛品在庫に法人企業統計の結果が反映され若干上方修正されるが、寄与度ベースでは1次速報の前期比▲0.1%から変わらないだろう。その他の需要項目では、12月の建設総合統計が反映されることなどから、公的固定資本形成が1次速報の前期比▲1.8%から同▲2.3%へと下方修正されると予想する。

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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長

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