中国が独自の仮想通貨が導入する日もそう遠くはなさそうだ。しかし昨年12月に行われた初の概念実証後、「中国の中央銀行が目指す仮想通貨はブロックチェーンを利用したものではない」との可能性が浮上している。

周小川(ジョウ・シャオ チュアン)中国人民銀行(PBOC)総裁の見解を交え、中国の目指す仮想通貨の未来をのぞいてみよう。

早期段階から仮想通貨開発に着手 昨年は概念実証も

2014年から仮想通貨開発プロジェクトに乗りだしていたことを2016年1月に公表したPBOC。シティバンクやデロイト・トーマツ・ グループに仮想通貨発行に関する情報提供を受けるかたわら、ブロックチェーン技術に精通した技術者を公募するなど、着実に下準備を進行させていた。

12月中旬に実現した初の概念実証には、同じく大手国有商業銀行の中国工商銀行、中国銀行のほか、テンセントが設立した中国初の民営銀行、深セン前海微衆銀行(WeBank)なども参加したことが、中大手金融メディア、財新グローバル(Caixin Global)の報道から明らかになっている。

報道によると中国政府は運行環境が整い次第、「デジタル・プラットフォームを上海のコマーシャル・ペーパー(企業用短期無担保約束手形)取引所と連結させ、デジタル化銀行手形取引を試験的に開始する」との意向を示している。

人民銀総裁「ブロックチェーンは可能性のひとつにすぎない」

こうした流れにも反映されているとおり、中国政府が目指す仮想通貨がブロックチェーンベースとなることに対し疑念の余地はなかった。ところが2月に入り、Caixinの取材に応じた周総裁の発言が、思わぬ波紋を投げかけることになる。

シャオ チュアン総裁はインタビューの中で仮想通貨の発行・普及に向けて準備中であることは認めたものの、その仮想通貨がどのような形態になるかは現時点では決定しておらず、「ブロックチェーンは可能性のひとつにすぎない」と述べた。

シャオ チュアン総裁の説明によると、デジタル通貨は口座を利用して取引を行うアカウントベース型と、口座を利用せずに取引を行う非アカウントベース型にわけられる。これら2つの異なる技術は、別々の層を設けることによって共存が可能になる。ブロックチェーンは改ざん不可能な非アカウントベース型分散型台帳であり、「プライバシー保護に重点を置いたデジタル通貨の開発には最適な技術だ」とPBOCは見なしている。

しかし研究の結果、ブロックチェーンの仮想通貨への利用には限界が生じる可能性も明らかになった。計算やストレージ・リソース(メモリ領域)を含むリソースが莫大になるほか、現在の取引量に対応する能力が備わっていないというのだ。

研究分野を拡大 仮想通貨発行に向け様々な可能性を検討

現時点での判断がどうであれ、PBOCは今後も金融機関やサイエンス、テクノロジー機関と協力しあい、仮想通貨開発に向けて研究を続けていく構えだ。

ブロックチェーン型仮想通貨を可能性のひとつとして検討する一方で、モバイル決済、安全性が高く管理性に優れたクラウド・コンピューティング、暗号アルゴリズム、セキュリティチップといった領域でも、さらなる理解を得るために探索範囲を拡大していくという。

つまり中国で将来的に発行される仮想通貨は、ブロックチェーン技術とアカウントベースの技術を融合させたもの、あるいはブロックチェーンとは完全にかけ離れたものになる可能性が浮上してきたということだ。

仮想通貨発行実現後も特化された金融政策は必須

そもそも中国政府の仮想通貨への熱意は、ビットコインなどを利用した国外への資本流出の脅威に起因する。国際金融協会(IIF)の調べによると、2015年に中国から国外へ流れでた推定6750億ドル(約76兆8690億円)。そのうち3分の1が裏口から流出しているといわれている。

PBOC は2014年以降ビットコイン取引を完全に停止しているほか、今年1月にも仮想通貨の潜在的リスクを国民に呼びかけるなど、通貨と同等の法的価値を認めていないとのスタンスを維持している。

それにも関わらず、国内の投資家や資産家はビットコインに殺到し、世界中のビットコイン総取引量の9割以上を独占しているといわれている。仮想通貨の発行は国内の資産の動きを管理下に置くうえで絶好のツールとなるはずだ。

シャオチュアン総裁は仮想通貨発行実現に要する時間について「特定の期限は設けていない」とする反面、実現後も仮想通貨に特化された金融政策が必須となる点を強調している。また世界一の人口を誇る中国では、現金から仮想通貨への移行に相当の年月を要するとの見解を述べた。

中国独自の仮想通貨の全体像を描くうえで振りだしに戻った感は否めない。ただしそこから先に開けていく何かがあることは間違いなさそうだ。(アレン琴子、英国在住フリーランスライター)

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