要旨
- 本稿では、1990年代以降、増えている共働き・子育て世帯の世帯数や家計収支の変化を専業主婦世帯と対比しながら確認する。
- 少子化で子育て世帯は減っているが、共働き世帯は増えているため、共働き・子育て世帯は、じわりと増えている。また、シングルマザー世帯も子育て世帯の1割を越えて存在感を増している。
- 世帯収入も消費も専業主婦世帯より共働き世帯で多いが、子育て世帯の夫の収入は専業主婦世帯で多く、雇用環境の良さがうかがえる。一方、2000年以降、いずれの世帯でも世帯収入や消費支出は減少。消費性向はおおむね変わらず、いずれの世帯でも同様に収入の減少にあわせて消費を抑制している様子がうかがえる。
- また、預貯金は増加傾向、保険は減少傾向にあり、若い子育て世帯を中心に、保険を含めて支出を抑え、お金はとにかく手元に留めたいという意識が強まっており、将来の経済不安の強さがうかがえる。
- このような状況から消費を促すことは容易ではないが、「女性の活躍促進」や「働き方改革」などが進むことで、消費余力のある共働き・妻フルタイム世帯(預貯金が月に約15万円)は増える見込みであり、雇用環境に起因する経済不安も一定の改善が期待できる。
- また、今回の分析は15~20年の長期的な視点に立ったが、短期的な視点、例えば、第二次安倍政権発足以降、2012年以降の状況を見ると、共働き子育て世帯などでは世帯収入が実質増えており、変化の兆しも見える。経済不安が薄れた時に、どんな消費余地があるのか。今後、共働き・子育て世帯の具体的な消費内容を分析する予定である。
はじめに
1990年代以降、子育て世帯で夫婦共働きが増えている。厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、末子が0歳児の母親の就業率は2015年に約4割、3歳児は6割を超えて上昇傾向にあり、若い世代ほど共働きがスタンダードになっている。この背景には、女性の社会進出や景気低迷による夫の収入減少等があげられるが、今後、政府の「女性の活躍促進」政策がさらに進むことで、ますます共働き世帯は増える見込みだ。
こうした中、消費市場でも共働き・子育て世帯の存在感が増すことが予想される。現在、世帯数は、どれくらいか。また、世帯の収入や消費には、どのような特徴があるのか。これらの状況を把握することは、低迷する個人消費の底上げを考える上でも、少なからず有益な情報が得られるだろう。
そこで、本稿を皮切りに、これからいくつかのレポートに渡って、共働き・子育て世帯の消費実態について見ていきたい。まず、第一弾の本稿では、ここ15~20年の共働き・子育て世帯の世帯数や家計収支の全体の変化に注目する。また、その特徴をより明確に捉えるために専業主婦世帯との対比をしていく。
世帯数の状況
◆子育て世帯の状況~少子化で減少傾向、この20年で総世帯に占める割合は3割から4分の1へ
厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、日本の世帯数は増加傾向にあるが、子育て世帯(児童のいる世帯、児童とは18歳未満の者)は少子化を背景に減少傾向にある(図表1)。子育て世帯数は、1996年から2015年にかけて、1,388万世帯から1,182万世帯(▲206万世帯)へと減少し、この20年間で約15%も減っている。それに伴い、総世帯に占める子育て世帯の割合も31.7%から23.5%(▲8.2%pt)へと低下し、現在、子育て世帯は全体の4分の1にも満たない。
◆親の就業状態別の子育て世帯の状況~専業主婦世帯減少、共働き世帯とシングルマザー世帯は増加
次に、親の就業状態別に子育て世帯数を見ると、専業主婦世帯が減り、共働き世帯が増えている様子がうかがえる(図表2~4)。1996年から2015年にかけて、父のみ有業の世帯(以下、便宜上、専業主婦世帯と表記)は701万世帯から352万世帯(▲350万世帯)へ、全体に占める割合は16.0%から7.0%(▲9.0%pt)へと半減している。一方、共働き世帯は555万世帯から659万世帯(+105万世帯)へと増加し、全体に占める割合も12.7%から13.1%(+0.7%pt)へと微増している。なお、子育て世帯では、2002年から、専業主婦世帯数を共働き世帯数が上回るようになっている。
ところで、母のみ有業の世帯も増えている。同期間で、79万世帯から125世帯(+47万世帯)へ、全体に占める割合は1.8%から2.5%(+0.4%pt)へと増えている。世帯類型で見ると母子世帯が増加傾向にあることから、母のみ有業の世帯の多くはシングルマザーの世帯であることが推察される。
また、子育て世帯のみに注目して親の就業状態別に世帯割合を見ると、1996年では、専業主婦世帯が過半数を占めて最も多いが、2002年に共働き世帯が上回り、2008年から共働き世帯は半数を超え、2015年では55.8%を占める(図表4)。また、母のみ有業の世帯も、この20年で倍増し、現在では子育て世帯の1割を超えるようになっている。
以上より、日本の世帯数は増加する中、少子化で子育て世帯は減っている。一方、若い世代ほど夫婦共働きが増えているために、共働き・子育て世帯は増えており、全体に占める割合も微増している。
収入の状況
◆世帯収入の状況~共働きで多いが、共働きも専業主婦も減少傾向、減少幅は高収入の共働きで大
共働き世帯では、妻の働き方、つまり、妻が配偶者控除を満額受けられる「103万円の壁」を越えて働くかどうかによって世帯収入に大きな差が出る。本稿では、総務省「家計調査」のデータ区分に従って、妻の収入が月8万円未満(妻の年収96万円未満)の世帯を共働き・妻パートタイム世帯、妻の収入が月8万円以上の世帯を共働き・妻フルタイム世帯(1)とする。なお、本稿では、共働き子育て世帯に注目しているが、同調査ではサンプル数の問題か、妻の収入別のデータを更に子供の状況等で分解したものは公表されていない。よって、まず妻の収入、次に子どもの状況の順に世帯収入を捉える。
世帯収入は、専業主婦世帯より共働き世帯で多く、共働き世帯では妻フルタイム世帯の方が多い(図表5)。2000年以降、いずれも減少傾向にあるが、減少幅は妻フルタイムの高収入世帯で大きくなっている(図表5・6)。共働き・妻フルタイム世帯の世帯収入は、2000年から2016年にかけて、74.6万円から70.0万円(▲4.6万円、実質▲7.4%)へと減少し、この15年余りで約5万円減少している。一方、共働き・妻パートタイム世帯では58.1万円から56.3万円(▲1.8万円、▲4.3%)へ、専業主婦世帯では51.7万円から49.8万円(▲1.9万円、▲4.9%)へと、それぞれ約2万円の減少である。
なお、この中で世帯収入が最も多い共働き・妻フルタイム世帯と最も少ない専業主婦世帯との差は、2000年代初頭では拡大傾向にあったが、ここ10年ほどは20万円前後で推移している。
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(1)データの制約上、このようにしたが、本来は96万円以上を全てフルタイムとするのは大掴であろう。例えば、世帯主の年齢別に、妻の収入区分を更に細かく把握できると、世代の違いなども分析可能となり興味深い。
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◆夫妻の収入の状況~パートタイム妻以外は、いずれも減少傾向、減少幅は高収入で大きい傾向
次に、夫婦それぞれの収入について見ると、妻より夫の方が多く、夫の収入は、直近ではいずれも40万円台半ばであり、専業主婦世帯の夫、あるいは共働き・妻パートタイム世帯の夫で多い傾向がある(図表7)。また、共働き・妻パートタイム世帯の妻を除くと、いずれも収入は減少傾向にある(図表7・8)。この違いには、「103万円の壁」の範囲で働く妻では景気低迷による賃金減少等の影響は比較的小さいが、フルタイムで働く労働者では影響を受けやすいことなどがある。なお、減少幅は収入が多い方が大きい傾向があり、専業主婦世帯の夫(2000年から2016年で▲3.0万円、実質▲7.4%pt)、共働き・妻パートタイム世帯の夫(▲2.8万円、▲6.9%pt)、共働き・妻フルタイム世帯の夫(▲2.5万円、▲6.6%pt)、共働き・妻フルタイム世帯の妻(▲1.9万円、▲9.0%pt)の順である。
以上より、2000年以降の世帯収入減少の背景には、パートタイム以外の有業者の収入減少があり、影響を受ける人数が二人である共働き・妻フルタイム世帯では世帯収入の減少幅も大きくなっている。
◆子育て世帯の収入の状況~世帯収入は共働き、夫の収入は専業主婦世帯で多く、いずれも減少傾向
同様に、子育て世帯の収入について確認する。なお、本稿では子育て世帯として、夫婦と未婚の子2人の核家族世帯とし、専業主婦・子育て世帯と共働き・子育て世帯のそれぞれについて捉える。
子育て世帯の世帯収入は、専業主婦世帯より共働き世帯の方が多いが、2000年以降、いずれも減少傾向にある(図表9)。減少幅は世帯収入の多い共働き世帯で大きく、共働き・子育て世帯の世帯収入は、2000年から2016年にかけて、64.1万円から60.4万円(▲3.7万円、実質▲7.1%)へ、専業主婦・子育て世帯では54.2万円から51.9万円(▲2.3万円、▲5.5%)へと減少している(図表9・10)。
また、夫婦の収入を見ると、共働き世帯では妻より夫の方が多く、夫では共働き・子育て世帯より専業主婦・子育て世帯の方が多い(図表11)。また、夫同士の差は、やや拡大傾向にある。共働き・子育て世帯の妻の収入は、2000年から2016年にかけて、11.8万円から12.7万円(+8千円、実質+5.6%pt)へとやや増加しているが、共働き世帯の夫は50.2万円から44.8万円(▲5.4万円、▲11.9%pt)へ、専業主婦世帯の夫は52.5万円から49.4万円(▲3.1万円、▲7.1%pt)へと減少している。
つまり、共働き・子育て世帯では、妻の収入がやや増えているものの、それを上回って夫の収入が減っているため、世帯収入は減少している。
なお、子育て世帯の世帯主の平均年齢は、専業主婦世帯より共働き世帯の方が高く、いずれも上昇傾向にある。2000年から2016年にかけて、専業主婦・子育て世帯では39.2歳から41.7歳(+2.5歳)へと常用し、共働き・子育て世帯では42.5歳から43.1歳(+0.6歳)へとやや上昇している。これらの背景には、晩婚化や晩産化の進行に加え、母親の就業率が上昇しているとはいえ、低年齢児を持つ母親ほど就業率が低い(親の年齢が若いほど専業主婦世帯が多い)ことがあげられる。
よって、子育て世帯では専業主婦世帯の方が世帯主の平均年齢が低く、専業主婦世帯の夫の方が収入は多いこと(2016年で+4.2万円)をあわせると、専業主婦世帯と共働き世帯の夫が同年齢であった場合、収入差は4.2万円より若干広がる可能性がある。
以上より、共働き世帯では、全体でも、子育て世帯に注目して見ても、専業主婦世帯より世帯収入が多い。しかし、労働者が複数いることで景気低迷の影響を受けやすく、減少幅も比較的大きい。なお、夫の収入は、全体では共働き世帯と専業主婦世帯でおおむね変わらないが、子育て世帯では専業主婦世帯の夫の方が多い。世帯主の平均年齢も低いことから、子育て世帯の専業主婦世帯の夫は比較的、雇用環境が良い者が多い様子もうかがえる。
消費支出や預貯金、保険の状況
◆消費支出の状況~世帯収入と同様に共働き世帯で多いが、いずれも収入減にあわせて消費抑制
次に、前節で収入を確認した世帯について、消費や貯蓄の状況を確認する。消費支出は、直近では、いずれも30万円台前半であり、世帯収入が多いほど多く、共働き・妻フルタイム世帯(2016年で34.9万円)>共働き・子育て世帯(33.8万円)>共働き・妻パートタイム世帯(32.8万円)>専業主婦・子育て世帯(30.3万円)>専業主婦世帯(30.1万円)の順である(図表13)。消費支出は、最も多い共働き・妻フルタイム世帯と最も少ない専業主婦世帯では約5万円の差がある。
なお、いずれも減少傾向にあり、2000年から2016年にかけての減少幅は、おおむね支出額が多いほど大きく、共働き・妻フルタイム世帯(▲4.7万円、実質▲13.1%pt)>共働き・妻パートタイム世帯(▲3.0万円、▲9.6%pt)>共働き・子育て世帯(▲2.9万円、▲9.0%pt)>専業主婦・子育て世帯(▲2.8万円、▲9.6%pt)>専業主婦世帯(▲2.4万円、▲8.6%pt)の順である(図表13・14)。
また、消費性向は、世帯収入が少ない順に高く(基礎的支出が世帯収入に占める割合が高くなるため)、専業主婦世帯(2016年で75.7%)>専業主婦・子2人世帯(72.1%)>共働き・妻パートタイム世帯(70.6%)>共働き・子2人世帯(68.2%)>共働き・妻フルタイム世帯(61.2%)の順で、最も高い専業主婦世帯と最も低い共働き・フルタイム世帯では約15%の差がある(図表15)。なお、いずれもおおむね横ばいで推移しており、世帯収入や消費支出は減少傾向にあることとあわせると、いずれの世帯においても同様に、収入の減少にあわせて消費を抑制している様子がうかがえる。
◆預貯金・保険の状況~高収入の共働きで多い、預貯金は増加で保険は減少、保険を貯金へとの流れも
家計収支において、実収入から消費支出と非消費支出(税や社会保険料等)を差し引いたものが黒字となる。黒字は、預貯金純増や保険純増、有価証券純購入、土地家屋借金純減等に分解できる。なお、本稿で注目している世帯の黒字額は、2000年以降、おおむね横ばいで推移している。ここでは、黒字の7~8割を占めて多い、預貯金純増や保険純増の状況について確認する。
預貯金純増(2)は、高収入世帯ほど多く、最も多い共働き・妻フルタイム世帯と最も少ない 専業主婦世帯では約10万円の差がある(図表16)。収入や消費とは異なり、いずれの世帯でも増加傾向にあり、増加幅は子育て世帯以外で比較的大きい(図表16・17)。なお、黒字に占める割合も上昇傾向にある。
一方、保険純増(3)は、高収入の共働き世帯や子育て世帯でやや多い傾向がある(保険料が多い一方、保険金は少ないため)。預貯金純増とは異なり、いずれの世帯でも減少傾向にあり、減少幅は高収入世帯や子育て世帯で比較的大きい(図表18・19)。なお、黒字に占める割合も低下傾向にある。
2000年以降、いずれの世帯でも預貯金が増え、保険に向ける金額が減っている。両者の増減額は必ずしも一致するわけではないが、子育て世帯と共働き・妻フルタイム世帯では約2千円以内の差におさまる。よって、これらの世帯を中心に、保険離れ、あるいは、比較的保険料が安い保険への移行が進んでいる可能性もある。確かに、弊社調査おいても、若い世代ほど保険加入率は低下傾向にあり、終身保険など比較的保険料の高い商品の加入率が低下しているという実態がある。
以上をあわせると、子育て世代では世帯収入の減少を背景に、保険も含めて支出抑制意識が強く、黒字分は安全性を重視し、有価証券購入等には振り向けずに貯蓄に留める様子がうかがえる。この、お金はとにかく手元に置いておきたいという意識は、将来の経済不安の強さの裏返しとも言える。
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(2)預貯金から預貯金引出を差し引いたもの。
(3)保険掛金(保険料)から保険取金(保険金)を差し引いたもの。保険金は貯蓄的要素のある掛け捨てでない保険の受取金。
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おわりに
本稿では、1990年代以降、増えている共働き・子育て世帯について、世帯数や家計収支の変化を確認した。少子化で子育て世帯は減っているが、共働き世帯は増えているため、共働き・子育て世帯は、じわりと増えている。また、シングルマザー世帯も子育て世帯の1割を超えて存在感を増している。
共働き世帯と専業主婦世帯の収入と消費の状況を見ると、いずれも専業主婦世帯より共働き世帯、共働き世帯では妻がパートタイムよりフルタイムの世帯の方が多い。なお、子育て世帯では、夫の収入が専業主婦世帯で多く、専業主婦・子育て世帯の夫は雇用環境が良い者が比較的多い様子も見える。
一方、2000年以降、いずれの世帯でも収入も消費も減少傾向にある。減少幅は高収入の共働き世帯で大きく、背景には景気低迷による賃金減少の影響を受ける人数の差がある。なお、消費性向はおおむね変わらず、いずれの世帯でも同様に収入の減少にあわせて消費を抑制している様子がうかがえる。
また、2000年以降、いずれの世帯でも預貯金は増え、保険は減っている。両者の増減額の状況などから、若い子育て世帯を中心に、保険も含めてとにかく支出を抑制し、お金は手元に留めたいという意識、将来の経済不安の強まりなどがうかがえる。
よって、例えば、共働き・妻フルタイム世帯では預貯金額が月15万円ほどもあり、消費余力があるようにも見えるが、これらを消費へ向けさせることは容易ではない。これまでも指摘してきた通り、若い世代ほど、景気低迷の影響を大きく受けて雇用環境が不安定であるため、将来の経済不安が強い。
しかし、今後とも「女性の活躍促進」政策は進み、消費余力のある共働き・妻フルタイム世帯は増える見込みだ。さらに「働き方改革」においては、同一労働同一賃金や賃金引上げなどの具現化も進み、雇用環境に起因する経済不安については一定の改善が期待される。
また、今回の分析は15~20年の長期的な視点に立ったが、短期的な視点、例えば、第二次安倍政権発足以降、2012年以降の状況を見ると、共働き・子育て世帯などでは世帯収入が実質増えており、変化の兆しも見える。
経済不安が薄れた時に、どんな消費余地があるのか。次回のレポートからは、共働き子育て世帯の具体的な消費内容について見ていきたい。
久我尚子(くが なおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部
主任研究員
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