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今回は、米国の大統領選挙によるドルレートへの影響を検討します。まず、一部で言われる「大統領選挙でドル高になる」という経験則を紹介した上で、米国の実効為替レートの推移を見ます。その上で、大統領選挙による為替レート変動の経験則が正しいかどうかを調べる為、大統領選挙の前後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月・1年の変動についてフィッシャーの正確確率検定を行います。その結果、大統領選挙の前後3ヶ月間と6ヶ月間は有意に相場が上昇している事を示します。


大統領選挙でドル高に?

「大統領選挙 ドル高」などでGoogle検索を行うと分かりますが、「米国大統領選挙の年はドル高」になるといった経験則についての記述が多数出てきます。米大統領選挙の年には「米国の政治への期待が高まってドル高になる」というストーリーがその殆どです。

この話自体はよく言われている事なのですが、それをきちんと定量的に分析したものは、知る限りでは有りません。敢えて悪い例としてURLを貼ったりはしませんが、良くない分析例として1988年以降のたった7回の大統領選挙の例だけを挙げて断定するようなものがあります。標本数が少ないなら少ないなりに適した分析手法があります。そこで本稿では、この経験則が正しいかを検証してみたいと思います。その前に、検証の対象として、米ドルの実効為替レートの推移を見てみましょう。


米ドルの実効為替レートの推移

図1は、1964年(実効為替レートの計測が行われ始めた年)以降の米国の名目実効為替レートと実質実効為替レートの推移です。図中の期間では、大統領選挙は1964年から2012年まで4年おきの11月に計13回行われています。図中に縦線が引かれている年は大統領選挙があった年です。これだけでは大統領選挙のアノマリーについては何も分からないでしょう。

図1:米国の実効為替レートの推移

図1:米国の実効為替レートの推移

出典: BIS effective exchange rate indices

なお、なぜ円ドルレートなど具体的な為替レートを使わないのかと思われるでしょう。個別の通貨レートだけで分析する場合、大統領選挙による変動要因を抽出する為の変数の調整やダミー変数の追加など極めて複雑な作業が必要になり、本稿の範囲を超えるので、今回は実効為替レートを利用します。


分析手法

まず、1964年1月から2013年9月までの期間において、各年の11月(2013年を除く)を起点として、以下のように前後1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月の変化率を取ります。

・10~11月への為替レート変化率

・11~12月への為替レート変化率

・8~11月への為替レート変化率

・11~翌年2月への為替レート変化率

・5~11月への為替レート変化率

・11~翌年5月への為替レート変化率

・前年11月~11月への為替レート変化率

上記の49年間のうち、選挙の有無に関わらず該当期間において選挙前に為替レートが上昇した回数、選挙後に為替レートが上昇した回数、それらの合計、該当期間数に占める選挙時の為替レート上昇割合を数えます。その集計結果が下図2になります。

図2:選挙時の為替レート上昇回数と割合

図2:選挙時の為替レート上昇回数と割合

出典:筆者作成

これを見る限り、選挙前の変化と選挙後の変化では特に大きな差は見られません。母集団も少ないので、選挙前後の為替レートの上昇数を合計したもの(図中の「選挙時上昇合計」)ベースで見ると、選挙有無に関わらず同期間注において、選挙前後は為替レートが上昇している傾向が見られます。(図中の黄色の部分)これに統計的有意性があるかを調べる為に、ここではフィッシャーの正確確率検定を行います。これは、標本数が少ない場合に、2つのカテゴリーに分類したデータを分析し、両者の結果の差異に「統計学的有意性」があるかどうかを調べるものです下図3は2 ×2分割表と呼ばれるもので、今回の例では「選挙がある時はドル上昇が多い」という仮説を検定するので、図中の黄色部分の割合が際立って多いかを調べます。

図3:本稿における2-×2分割表の例1

図3:本稿における2 ×2分割表の例

出典:筆者作成

フィッシャーの正確確率検定におけるp値(標本のばらつきが偶然である確率)の求め方は以下の式のようになります。

フィッシャーの正確確率検定におけるp値

フィッシャーの正確確率検定におけるp値