ASEANの消費者物価(3月号)~原油高を背景とする上昇傾向は継続
インドネシア の17年2月のCPI上昇率は前年同月比3.83%増(前月:同3.49%増)と上昇した(図表2)。CPI上昇率は依然として3%台の落ち着いた水準であるものの、上昇傾向が強まりつつある。
主要品目別に見ると、住宅・電気・ガス・燃料は同3.71%増(前月:同2.47%増)と、1月から始まった契約容量900VAの家庭向けの段階的な電力補助金の削減を受けて上昇した。また輸送・通信・金融は同3.07%増(前月:同2.76%増)と、車両登録料を引き上げた1月に続いて小幅に上昇したほか、食材も同4.39%増とクリスマス後の需要が弱かった前月の同4.11%増から小幅に上昇した。
食料品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同3.41%増(前月:同3.35%増)と、昨年から緩やかな低下傾向が続いたが、17年に入って小幅に上昇している。
中央銀行は、3月15-16日に開かれた理事会(金融政策会合)で、食品価格や政府の統制価格の上昇、補助金改革などが先行きの物価上昇圧力となるとしつつも、2017年のインフレ率は目標の範囲内(4±1%)で推移するとした。なお、政策金利については、米国の利上げや新政権の経済・貿易政策の方向性、欧州の政治リスク、国内のインフレリスクを警戒して据え置いた。
タイ の17年2月のCPI上昇率は前年同月比1.44%増(前月:同1.55%増)と、4ヵ月ぶりに低下した(図表3)。2月のCPI上昇率はたばこの物品税の引上げの影響が剥落して低下したものの、16年以降の原油価格の上昇を背景とする緩やかな上昇基調は続いているものと見られる。
主要品目別に見ると、食品・飲料は同1.00%増(前月:同1.53%増)と、好天で供給量が増加した野菜・果物を中心に低下した。また、たばこ・酒類は同3.82%増と、昨年2月のたばこの物品税引き上げの影響が剥落して前月の同12.97%増から低下した。一方、輸送・通信は同5.58%増(前月:同4.76%増)と燃料価格を中心に上昇したほか、住宅・家具も同1.17%減(前月:同1.26%増)と、ガス料金の値上げを受けて小幅に上昇した。
コアCPI上昇率(生鮮食品とエネルギー除く)は同0.59%増(前月:同0.75%増)と若干低下し、概ね1%を下回る水準で安定している。
なお、タイ銀行(中央銀行)は17年のインフレ率が1.5%の緩やかな上昇に止まり、インフレ目標(1-4%)の下方で推移すると予測している。
マレーシア の17年2月のCPI上昇率は前年同月比4.5%増と、前月の同3.2%増から上昇した(図表4)。CPI上昇率の基調としては、昨年3月~7月にかけて景気減速やGST(物品・サービス税)導入による押上げ要因の剥落で低下した後、ガソリン価格の値上げによる上昇傾向が続いている。
主要品目別に見ると、輸送は同17.9%増(前月:同8.3%増)と、ガソリン価格の値上げによって一段と上昇した。また食品・飲料は同4.3%増(前月:同4.0%増)と、小幅に上昇した。食品・飲料の内訳を見ると、昨年11月の食用油向け補助金廃止の影響で油脂(同38.3%増)が高騰しており、また野菜(同9.5%増)や肉類(同4.6%増)の上昇も食品全体を押し上げている。なお、住宅・光熱は同2.2%増(前月:同1.9%増)と上昇したが、概ね2%前半で安定して推移している。
食品とエネルギーを除いたコアCPI上昇率は同2.5%増(前月:同2.3%増)と小幅に上昇し、概ね2%台前半でのレンジ圏を超過する動きが見られる。
中央銀行は、3月23日に公表したアニュアル・レポートで17年のインフレ率が3.0-4.0%となり、16年平均の2.1%から上昇すると予測した。また3月2日に開催した金融政策会合(MPC)では先行きのインフレ率は17年前半に上昇するが、その後は落ち着いて推移すると示した。なお、金融政策は現行の緩和的な水準を維持するとし、政策金利を据え置いた。
シンガポール の17年2月のCPI上昇率は前年同月比0.7%増(前月:同0.6%増)と小幅に上昇した(図表5)。CPI上昇率は今年5月を底に緩やかな上昇が続いており、2月もエネルギー価格に関連する商品・サービスを中心に上昇した。
主要品目別に見ると、輸送は同4.2%増(前月:同2.8%増)と、ガソリン価格の値上げを受けて上昇した。また住宅・光熱費は同3.1%減(前月:同3.2%減)と、賃貸住宅市場が軟調で下落傾向こそ続いているものの、ガス料金の上昇を受けてマイナス幅が小幅に縮小した。一方、食品は同1.3%増(前月:同1.9%増)と、春節後の需要減によって未加工食品を中心に低下した。
MAS(シンガポール金融管理局)が公表したコアCPI上昇率(政府の政策の影響を受けやすい自動車と住宅を除く)は、昨年からごく緩やかな上昇傾向が見られるが、2月は1.2%増(前月:同1. 5%増)となり、食品価格とその他の財・サービス価格を中心に低下した。
なお、MASは2017年のインフレ率が0.5%~1.5%と、ガソリン価格や政府の統制価格の値上げを背景に2016年の▲0.5%から緩やかに上昇すると予測している。
フィリピン の17年2月のCPI上昇率は前年同月比3.3%増(前月:同2.7%増)と上昇した(図表6)。CPI上昇率は昨年から食品や燃料の価格上昇を受けて緩やかな上昇傾向が続いており、2月は卒業シーズンに伴う需要増を受けて2014年11月以来となる3%台に達した。
主要品目別に見ると、まず全体の4割を占める食品・飲料(酒類除く)は同4.1%増(前月:同3.4%増)となり、コメや魚、肉類、野菜など幅広い品目が上昇した。輸送は同2.8%増(前月:同2.4%増)と、ガソリン価格やジプニー運賃の値上げを受けて上昇した。また、昨春から上昇傾向が続いている住宅・水・電気・ガス・燃料は同2.9%増(前月:同1.8%増)と、電気・ガス料金を中心に上昇した。
食品とエネルギーの一部を除いたコアCPI上昇率は、強い消費需要を背景に緩やかな上昇傾向にあり、2月は同2.7%増(前月:同2.5%増)と小幅に上昇した。
中央銀行は3月23日に開催した金融委員会では、先行きのインフレ見通しについて17年が3.4%、18年が3.0%と予測し、17-20年の物価目標(2-4%)の範囲内で推移するとしている。なお、政策金利は、インフレ率が今後も管理可能な範囲で推移することから据え置かれた。
ベトナム の17年2月のCPI上昇率は前年同月比5.02%増(前月:同5.22%増)と、今年の旧正月の開催時期が1月に早まった影響で2月の消費需要が減退したことから小幅に低下した(図表7)。CPI上昇率は2月こそ低下したものの、基調としては上昇傾向にあり、17年に入って政府目標の4%を上回る状況が続いている。
主要品目別に見ると、まず食品は同0.50%増(前月:同2.37%増)と、需給が緩んだ豚肉や野菜を中心に低下した。また衣服・帽子・靴も同1.00%増(前月:同1.51%増)と、テト休暇後の需要後の落ち込みを受けて低下した。一方、輸送は同9.97%増(前月:同5.02%増)と、ガソリン価格の値上げを受けて一段と上昇した。また住宅・建材も同4.77%増(前月:同3.54%増)と上昇した。なお、保健・ヘルスケアはウェイトが全体の5%と大きくないものの、伸び率が同57.21%増と昨年からの段階的な医療費の引上げを受けて高止まり、また教育も同10.07%増と新学年が始まった9月から二桁増が続いている。
食料品とエネルギー、政府の価格統制品目(医療・教育)を除いたコアCPI上昇率は昨年から続いた横ばい圏で推移していたものの、2月は同1.51%増(前月:同1.88%増か)と、テト休暇後の需要後の落ち込みを受けて低下した。
斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
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